自動運転車といえば、センサやAI、ITなどに焦点が当てられることが多い。だが、クルマの基本性能の一つである「曲がる」の分野でも先進的な開発が進んでいる。

「冗長化」によって止まらないシステムを

「我々の使命は“ステアリングシステムを決して止めないこと”。どんな事態が起こっても機能し続ける──。これが最重要事項です」

こう語るのは、ジェイテクトの賀治宏亮氏だ。同社は自動車のステアリング(操舵装置)の世界トップメーカー。そのグローバルシェアは約26%と2位以下を圧倒し、1988年に電動パワーステアリング(EPS)を世界で初めて開発・量産化した企業としても知られている。軸受や工作機械、駆動系部品などの事業と合わせると、昨年度の売上高は1兆3000億円超だ。

賀治宏亮(かじ・ひろあき)
株式会社ジェイテクト
ステアリング事業本部
電子システム企画部 部長

ステアリング事業本部で電子システム開発を統括する賀治氏は、「自動運転においては仮にどこかの部位で故障が起こっても、操舵機能を継続する最高レベルの安全性が不可欠。当社はすでに完全自動運転化を見据えた開発を進めています」と説明し、次のように続ける。

「安全のためにシステムを停止するというのも一つの方法。従来は、それが基本的な考え方でした。しかしEPSが普及し、それを前提に自動車開発が行われている中、人間の力だけでスムーズにハンドル操作をするのが難しい状況もすでに生まれています。まして自動運転となれば、ステアリングの機能停止は許されません。言うまでもなく、それは重大事故につながります」

では、“止めない”ためにどうするか。鍵は「冗長化」だ。ここでの冗長化とは、いわばシステムの二重化のこと。一つの系統が故障しても残りの系統でバックアップすることによって、運転を継続することができる。

「第1段階はソフトウェアによる冗長設計で安全対策を施し、次の段階ではセンサなど一部ハードウェアの二重化を行いました。今後はマイコンや電源などの基幹パーツを含めた冗長化を目指しています。技術的なポイントはそれぞれの系統を連携させながら、同時に独立性を確保すること。両方の系統が連携して状況を把握しながら、いざというときは独立して働かなくてはならない。このバランスをいかに取るかがエンジニアの腕の見せどころだと思っています」(賀治氏)

自動操舵と手動操舵の切り替えも重要な課題

もう一つ、ジェイテクトが自動運転の進展の中で力を注いでいるのが、自動運転から手動運転へ、あるいはその逆も含め、人とクルマの間の操作権限の切り替えにかかわる部分である。

「このヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)の出来、不出来が自動運転車の普及スピードを左右する」と指摘するのは、同社の吉井康之氏だ。吉井氏は研究開発本部システム創生研究部の部長として、将来ニーズを見越した開発案件を担当。自動運転に対応した「ハンズオンディテクション」や「シェアードコントロール」と呼ばれる技術の開発を進めている。

吉井康之(よしい・やすゆき)
株式会社ジェイテクト
研究開発本部
システム創生研究部 部長

「例えば、自動操舵から手動操舵に切り替えようとドライバーがハンドルを握って操作した際、いかに円滑に切り替わるようにするか。一方で間違ってハンドルに触れてしまったときには、どうやって切り替えないようにするか。この辺りは、運転の安全性に直結するところです。そこで私たちは従来から培ってきた信頼性の高いEPSセンサの技術を活用し、迅速かつ正確な切り替えを目指しています。さらに路面からの振動などの入力も誤検知しないよう独自のアルゴリズムで適用し、ドライバーが不安を感じない操作感も重視しています。それを支えているのは、長いステアリング事業の中で蓄積してきた膨大なノウハウにほかなりません」(吉井氏)

ジェイテクトでは、今後ステアリング技術をインフォメーションディスプレイや音声装置と連携させることも念頭に置いている。そうした総合的な視点から開発に取り組む背景には、「クルマを操作するうえで人と一番接触しているのはステアリングだ」との思いがある。

電子システム企画部の賀治氏は言う。

「自動運転へのアプローチは自動車メーカーさんごとに異なります。我々はそうした個々の要望に応えながらも、トップメーカーとして全体動向を見据えたシステムに仕上げる責任がある。そのためにも常に上位概念から理論立てて詰めていく。その基本姿勢を大切にしたいですね」

一方、システム創生研究部の吉井氏も「リーディングカンパニーとして新たなビジョンを発信していく必要がある」と強調する。

「シームレスに自動操舵と手動操舵が切り替わるようにする。そして自動運転の中でも、五感でドライビングを楽しめるようにしていきたい。さらに、今後快適な移動空間としてのクルマやシェアードカーという在り様を想定したとき、HMIとしてのステアリングに何が要求されるのか。そうしたことを追究し続けることこそが、我々の生命線だと考えています」

ジェイテクトでは現在、ハンドルとタイヤ間をメカ機構ではなく電気信号で直接つなぐ「Steer by Wire(ステア・バイ・ワイア)」の研究開発も進めている。その面でも賀治氏や吉井氏が担う開発分野の役割は拡大するに違いない。そしてIT分野との連携まで見通すとき、ジェイテクトという企業そのものの“ハンドル操作”は、自動車業界においていっそう重要なものとなることだろう。

ジェイテクトが開発した360度映像のヴァーチャルリアリティコンテンツ「JGOGGLE2」。「ジェイテクト伊賀試験場」を舞台に、ドライバーとシステムとの意思伝達、協調性にかかわる技術を体感できる。東京モーターショー2017にも展示される。

東京モーターショー2017&JTEKT ROOM Ginzaで「未来のモビリティ」に出会う!

ジェイテクトは、10/27~11/5の期間、東京ビッグサイトにて開催される「第45回東京モーターショー2017」に出展。 10/18~11/24の間、JTEKT ROOM Ginzaにおいてもサテライト企画を実施する。

東京モーターショーでは、「思い通りって楽しい」をコンセプトにLEXUS LC500のカットモデル、Steer by WireとIn Wheel Motorとが協調する車両モジュールなどを展示。現在の製品から将来の技術まで、幅広く紹介する。

 

JTEKT ROOM Ginzaのサテライト企画では、多摩美術大学のデザインチームが50年後のモビリティ社会におけるジェイテクトの「曲がる技術」を思索。その成果を来場者自らが操作できる体感映像などを通じて表現する。