住まいとは、暮らしの夢を描く場所であると同時に、家族の命と財産を守るシェルターでもある。進化する住宅技術にフォーカスして、毎日を快適に、健康に過ごせ、万一の災害も乗り切れる安心感のある家を建てるためには、どんなことを考えておくべきか。設計事務所を主宰し、ハウスメーカーの商品にも詳しい、東京家政学院大学生活デザイン学科・教授の原口秀昭氏に聞いた。
原口秀昭 Hideaki Haraguchi
東京家政学院大学生活デザイン学科・教授
一級建築士
1959年東京都生まれ。1982年東京大学建築学科卒業。1986年同大学修士課程修了。設計事務所を設立し、住宅や店舗、ホテルなどの設計を行う。1997年、東京家政学院大学住居学科(現・生活デザイン学科)助教授。2010年より、同教授。著書に『ゼロからはじめる「木造建築」入門』『ゼロからはじめる建築の「設備」教室』(どちらも彰国社)など多数。

地震や洪水など災害に強い家づくり

住宅にとって、何よりもまず優先されるのは「安心・安全」であることだろう。特に近年、国内では地震や水害、土砂災害などが相次いでいる。なかでも耐震性能は、注目すべきポイントの筆頭に挙げられる。

「阪神淡路大震災以降、新築住宅の耐震性は格段に高くなりました。特に大手ハウスメーカーの商品は、いずれも高い水準にあります」と原口氏。

「大開口を備えた家を実現しながら、住宅性能表示における最高レベルの耐震等級3を満たすものも少なくない。きちんと施工されてさえいれば、ほぼ問題ないといえるでしょう」

住宅性能表示とは、2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく評価制度のこと。耐震性に関しては倒壊防止と損傷防止の2項目に分けられ、それぞれ1から3までの等級がある。すべての新築住宅は、建築基準法の耐震基準に相当する等級1をクリアしなければならない。耐震等級3は、等級1の1.5倍の地震を受けても、倒壊・損傷を防ぐという基準だ。

「洪水や土砂災害に関しては、地形や地盤が重要です。これから土地を買って家を建てるのなら、必ず事前にハザードマップを確認してください」

国土交通省はハザードマップのポータルサイトを用意しており、そこから場所ごと・地域ごとのハザードマップが検索できる。

「ゲリラ豪雨のように、短時間に集中して大量の雨が降ると、排水が間に合わなくなるケースがあります。大きなバルコニーをつくるなら、その上まで屋根を架け、排水口を複数設けておくと安心です」

さらに、火災への備えも大切だ。

「特に敷地が木造住宅密集地にあるような場合、どのような延焼対策をしているか、ハウスメーカーの担当者に確認してみるといいでしょう」

国の目標はゼロエネルギー
太陽光発電は新築時に検討を

これからの時代、環境性能も重要なポイントになる。エアコンなどによるエネルギー消費を抑えながら、いかに健康的で快適な空気・温熱環境をつくり出せるか、ということだ。

「そのために、最低限押さえておかなければならないのは断熱性能です。冷暖房効果を保ち、外気温の影響を受けにくい躯体であることがまず重要。ハウスメーカー各社も力を入れており、構法・構造のいかんを問わず、多くの商品が高い断熱性を備えています」

さらに国では、2020年までに新築注文戸建住宅の過半数で「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」を実現する、という目標を掲げている。

ZEHとは、高い断熱性に加え、効率の高い設備機器と再生可能エネルギーの導入によって、「快適な室内環境」と「年間で消費する住宅のエネルギー量が正味でおおむねゼロ以下」を両立できる住宅を指す。省エネルギー性能だけでなく、太陽光発電システムのような、エネルギーを“創る”設備の導入が不可欠だ。

「太陽光発電システムを設置したいと考えているなら、後付けは避けたほうがいい。家を建てるとき、同時に計画に組み込みましょう。建設時に予定していなかった太陽光パネルをあとから搭載して、万一にも屋根材を傷付けるようなことがあってはならないからです」と原口氏。

屋根材がずれたり傷付いたりすれば、そこから雨水が浸入して、建物にダメージを与えることになりかねない。

生活スタイルが変わっても対応しやすい間取りをつくる

 「長く住み継ぐ」という観点で考えたとき、プランニングにはどんな注意点があるだろうか。原口氏は不動産経営にも携わっており、住宅の資産価値にも詳しい。

「住宅は長く使うものですから、家族構成もライフスタイルも建てた時点から年月に従って変わっていくことを前提にしたほうがいい。そう考えると、間取りはなるべくシンプルなほうが、変化に適応しやすいといえます。例えば、リビングはなるべく広く、単純な四角形にしておけば、あとあと自由に使いこなせるでしょう」

間取りがシンプルであれば、外壁の面積も少なくてすみ、屋根の形もシンプルになる。建築コストの面で有利であるだけでなく、耐久性の面でも弱点が生まれにくい。

「キッチンやトイレ、洗面台、扉やシャッターなどの住宅設備は進化しています。ただ、建物よりは寿命が短いので、いずれは機器の交換やリフォームが必要になります。そう考えると、特に水回りのスペースにはゆとりを持たせておくことをお薦めしたいですね。可変性が高まりますし、年齢を重ねたとき、手すりを付けたりするのも容易になります」

将来、子供との同居を考えるなら、完全独立型の二世帯住宅プランや賃貸住宅併用住宅にしておくことも考えられる。例えば、実際に同居するまでは賃貸して収益を得れば、住宅ローンの返済資金に充てられる。

資産価値という視点では、将来なんらかの理由で売却することになった場合にも、流通しやすい建物にしておくことが重要だ。

「個性的すぎる住宅には買い手がつきにくいもの。自分たちの将来のライフスタイルの変化を考えても、万一売却することを考えても、可変性の高いシンプルな住宅のほうが、長くその価値を保てるのではないでしょうか」

日本の気候に適した、長持ちする外装材を選ぶ

間取りや設備機器、インテリアは年月とともに替えていく必要があっても、建物の躯体の劣化は防ぎたい。住み継ぐためにメンテナンスは不可欠だが、なるべくそのための手間と費用がかからない躯体や外装を選んでおきたいところだ。

「まず、直接雨風にさらされる屋根材の耐候性が重要です。例えばスペイン瓦のような、年中温暖な地域で使われる輸入品の屋根材を日本の寒冷地で使うと、冬場の凍結でひび割れるようなことがある。特に屋根や外壁などの材料は、日本ならではの気候を踏まえてつくられた素材を選んだほうがいいでしょう」と原口氏。

ハウスメーカー各社は、それぞれ独自の外装材を開発している。工場生産ならではの、安定した品質も特徴だ。

「メンテナンスサイクルや、アフターメンテナンスの体制についても確認しておくといいでしょう」

住宅としての基本性能をしっかり押さえ、頑丈で劣化しにくい躯体をつくること、光熱費やメンテナンスなどランニングコストがかからないこと。普遍性の高い課題をクリアしたうえで、自分たちならではのライフスタイルやデザインを反映させる。優先順位を踏まえて、ひとつひとつ納得しながら家づくりを進めていただきたい。

(萩原詩子=文 鶴田孝介=撮影)