運輸・旅客業界でドライバーの飲酒運転を防止するためのアルコール測定システム。東海電子は、そのシステム開発と製造・販売に加え、啓発活動も展開する。市場をリードし続けている同社の杉本一成社長はどんな思いや経営理念を持っているのか──。TOKYO FM「クロノス」の中西哲生さんが聞いた。
社員には成長へのモチベーションを高く持ってほしいです
杉本一成(すぎもと・かずなり)
東海電子代表取締役
東京都出身。1960年、(株)東芝技能養成所に入所。63年、(株)東芝入社(配電盤機器配属)。69年、(有)杉本製作所を設立し代表取締役。79年、(株)東海電子を静岡県富士市に設立し現職。趣味はギターの弾き語り。

進化を重ねるオンリーワンのシステム

【中西】東海電子は1979年に設立され、20年近く大手電子メーカーのもとで電卓や時計などを製造なさっていたとうかがいました。どんなきっかけから、業務用アルコール測定システムのメーカーへと生まれ変わったのでしょうか。

【杉本】下請けの仕事は、どうしても景気や為替などの変動に伴う生産調整の影響を受けるため、経営を安定させるのが難しい。それで自社製品の開発を決断したんです。

ほどなく1999年に、東名高速道路で渋滞のため停車中の乗用車に飲酒運転の大型トラックが追突する事故が報じられました。乗用車は炎上。後部座席の幼い子どもさん2人が亡くなったのです。あまりの痛ましさに、「なんとかして飲酒運転をなくせないか」「まず運輸・旅客業界向けに、飲酒したドライバーは運転できない仕組みをつくろう」と考えました。

【中西】あの事故のニュースは、僕もはっきり覚えています。やがて2003年に最初のシステムを発売なさいましたね。そして市場シェアはトップクラスへ。他との差別化のポイントを聞かせてください。

【杉本】優れたハードを追求することはもちろん、ソフト面にも力を入れていることでしょうか。販売後のメンテナンスも、製造元である当社自身が責任をもって行います。また、飲酒運転防止の啓発セミナーを無料で開催しています。

「飲酒運転事故ゼロ」を目指し、システムの改良や新規開発も続けてきました。不正を防ぐため他社に先駆けて、呼気を吹き込むとき顔写真を撮影するようにしたのも成果の一例です。ただドライバーの方々にとっては、測定結果で生活や人生までもが左右されかねません。当社のシステムも、本当は飲酒していないのに反応するような誤作動は許されないのです。そこで測定精度の向上を重要テーマに据え、センサーの性能アップも図りました。

さらに今日では、ユーザー企業の事業所に備え付けるタイプだけでなく、車載型のシステムも提供しています。これはアルコールインターロック装置といって、アルコールを検知すると、エンジンを作動させないシステムです。純国産としては、当社が初めて手がけました。

【中西】なるほど。クルマという偉大なテクノロジーの産物にも負の側面があるわけで、飲酒運転による事故の防止は大きな課題です。その解決に挑み続けていらっしゃる。

【杉本】はい。道交法の強化、厳罰化は進んだものの、ここ数年も飲酒運転による死亡事故は、年間200件を超えています(※)。解決に貢献するオンリーワンの製品とサービスを提供し続けたいですね。

たとえ失敗してもそれは失敗しない方法を学ぶ機会です
中西哲生(なかにし・てつお)
スポーツジャーナリスト
愛知県出身。プロサッカー選手として名古屋グランパスエイト、川崎フロンターレで活躍。現役引退後スポーツジャーナリストに。テレビ、ラジオなど各種メディアで活躍している。TOKYO FM「クロノス」メインパーソナリティー。

小さなチャレンジも必ず成長の糧となる

【中西】最初のシステム発売から14年。オンリーワンへの道のりは順調だったといえますか。

【杉本】いや、厳しい局面もありました。14年前、まずバス会社2社が採用してくださったのですが、我々の想定に比べて使用頻度が高すぎたり、冬にはシステムに吹き込んだ呼気が結露したりでトラブルが発生。講じた対策も、また別の問題を招いてしまい、もう会社を整理する覚悟さえしたほどでした。でも、ありがたいことに2社とも「早く使えるようになるのを待っている」と、我々を励ましてくださった。約3カ月いただきましたが、問題をすべてクリアし、当社システムの評判はバス協会を通じ瞬く間に広がりました。それが一気に普及する契機でしたね。

【中西】東海電子の存続にかかわる失敗とはいえ、文字どおり「失敗は成功のもと」だったと──。

【杉本】ええ。だから私は、いまも当社の社員たちに失敗を恐れず、どんどんチャレンジしてほしいと話しているんです。たとえ小さなチャレンジでも、必ず成長の糧となる。失敗し、苦労することで何らかの教訓も得られるに違いありません。

【中西】何の行動も起こさなければ何も得られませんが、たとえ1000回失敗しても、失敗しない方法を1000通り学ぶことはできるでしょう。成功は、失敗や苦労の末のほうがいいのかもしれません。

【杉本】そうですね。社員にはチャレンジを通じ、自己実現してほしいというのも私の願い。数年前から社員たちが新製品・サービスの企画案を発表する場を設けたところ、今期だけで200件ものアイデアが生まれ、とてもうれしく思っています。

【中西】皆さん、頼もしいですね。

【杉本】自社製品・サービスでやっていこうと決断して以来、常に人材こそが当社の支えです。かつて目指した株式上場も、見合わせました。会社は実際に汗を流している社員と、我々経営陣で共有すべきもの。そう考えたからです。社員には自己と会社の成長へのモチベーションを高く維持してもらえるよう、人材育成に力を入れ、社員に対する利益分配にも十分配慮しているつもりです。また研究開発投資も積極的に行い、新たな成功を目指しています。

ヘルスケア分野でも新製品開発に挑戦

【中西】新しい製品・サービスの構想を、ぜひお聞かせください。

【杉本】我々は業務用アルコール測定システムの事業展開で、呼気を分析する技術に磨きをかけてきました。これを生かして現在、本社がある静岡県の県立がんセンターと共同開発プロジェクトを進めています。血液検査で腫瘍マーカーを調べるのと同じように、受診者の呼気が含む物質によって、がんリスクをスクリーニングするシステムづくりです。すでに試作段階まで達し、遅くとも5年後の実用化を目指しています。

当社の企業理念は「社会の『安全』『安心』『健康』を創造し、社会に貢献する企業である」こと。その具現化に向けて、これからもチャレンジスピリッツを強く持ち、できることを一つ一つ積み重ね、新たな独自製品・サービスを着実に創出していきたいですね。

(※)「平成28年における交通死亡事故について」警察庁交通局

2人のトークの模様はTOKYO FMでもオンエア!
東海電子代表取締役・杉本さんと、パーソナリティ・中西さんによるトークの模様は、9月20日(水)、27日(水)、各7時20分より、JFN38局でオンエア中の「中西哲生のクロノス」にて放送。お聞き逃しなく!