今やあらゆる人にとって必須の課題である資産運用。うまくいく人と、そうでない人の差はどこにあるのか。ファイナンシャル・プランナーとして、多くのビジネスパーソンの相談にも乗る伊藤亮太氏に聞いた。

確かな情報とリテラシーが合理的な判断には欠かせない

伊藤亮太(いとう・りょうた)

伊藤亮太FP事務所 代表
東洋大学経営学部非常勤講師
ファイナンシャル・プランナー(CFP)


慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了。その後証券会社にて、営業、経営企画部門等を経て、独立。ライフプランニング、資産運用、保険の見直しなどをサポートする。資産運用関連セミナー、FP受験講座の講師も多く務めている。

 

国からのメッセージを聞き逃してはいけない

──ビジネスパーソンの資産運用への関心は高まっていると思いますか。

【伊藤】40代を中心に経営者や企業の役員クラス、公務員など、多くの方が今後の資産運用の方法について相談に来られます。定期預金の金利もほぼ0%という状況で、お金をただ寝かせておいても仕方ない。自ら効率的に運用して資産づくりをしていくしかないだろう、と現状を案外ポジティブにとらえている人が多い印象です。

実際、それは正しい認識だと思います。今、NISAやiDeCoをはじめ投資における税制優遇の制度などが次々に登場していますが、これはある意味「今後、資産づくりはそれぞれ自助努力で」という国からのメッセージなのです。

──資産運用に取り組むにあたって、何から始めるべきでしょうか。

【伊藤】「何のために」「どれくらいの期間」「どの程度の金額まで」運用を行うか。これをはっきりさせることがスタートになります。基本的なことではありますが、すぐに答えられる人は多くありません。ただ、こちらがいろいろ質問をするとその輪郭がだんだんと見えてきます。つまり潜在的には目的、目標があるわけで、そこをまず顕在化することが第一歩です。そのうえで、家計を「生活防衛資金+使用予定資金」と「余裕資金」に分けて、どれくらい投資に回せるかを考える。これも基本中の基本です。

──何事も基本が大事ということになりますね。

【伊藤】目的や目標、自分なりの基準を持つと運用の方向性も定まってきます。まとまったお金を預けてじっくり運用する、ある程度リスクをとってリターンを狙う、長期の視点で不動産などへの投資を検討する──。選ぶべき対象やその配分なども見えてくるでしょう。

──多くの人の資産運用をお手伝いしてきて、成功する人、うまくいかない人の差はどこにあると思いますか。

【伊藤】自分自身をコントロールできる、しっかり決断ができる。そうした人が総じて成功しています。目標や目的、基準を設けても、それを忠実に実行することができなければ意味がありません。その時々の状況をとらえ、周囲の声などに耳を傾けることは大事ですが、それらに流されて軸がぶれてしまってはいけない。これはビジネスと共通していると思います。事態に臨機応変に対応しながらも、目標を見据えて追求することが大切。実際、資産運用で成果を上げている人は、ビジネスパーソンとしても優秀な人が多いように感じます。

金融機関や不動産会社を見極める方法は?

──投資に関して具体的なアドバイスはありますか。

【伊藤】自分自身の仕事や業界など、身近なところから発想して運用対象を選んでみるのも一つの方法だと思います。相応の知識を持っている分野なら情報も収集しやすいし、感覚もつかみやすい。投資の世界では、案外足下に成功のヒントがあることも多いんです。

資産運用を開始するとなったら、これも鉄則ですが、“分散”の意識は欠かせません。地域、通貨、時間、資産規模、さまざまな視点の分散がありますから、最初に決めた目的、目標と照らし合わせて運用対象を選ぶといいでしょう。

不動産投資に関心を持つ人も増えていますが、ポイントの一つはやはり地域性だと思います。人口減少の時代といっても、細かく見ていくと着実に人が増えているエリアもある。魅力的な再開発が進んでいたり、子育て支援に力を入れていたり──。人口予測などは、自治体ごとのデータなどが公表されていますから、チェックしてみるといいでしょう。

──金融機関や不動産会社など、資産運用のパートナーとは、どう付き合うのがいいでしょうか。

【伊藤】私自身も投資をしており、いくつかの事業者とお付き合いしていますが、いい会社というのはある程度時間が経っても、こちらのニーズに合った情報や商品が出てくれば伝えてくれます。付き合い始めだけでなく、中長期の視点で顧客と向き合っているかどうかは見極めの基準になるでしょう。

また、商品やサービスの価格に透明性があるか。こんなところも私は確認するようにしています。ほかにもいろいろなポイントがあるでしょうが、自分が信用できる相手を見つけるためには、複数の事業者に同じ希望を伝えてみるなど、こちら側も能動的に行動することが求められます。受け身でいるだけでは、なかなかいいパートナーとは出会えません。

──最後に一言、読者へのメッセージをお願いします。

【伊藤】経済リスクばかりでなく、政治的なリスクも高まるなか、お金を取り巻く環境の先を読むのは非常に難しい。そこで一つ重要なのが情報力です。新聞や雑誌、ネットから多様な情報を取れる時代ですから、そこは惜しまずにある程度手間をかけてほしいと思います。継続的に情報にあたっていれば、知識が身に付き、大きなニュースがあっても落ち着いて対応することができる。またファイナンシャル・プランナーなどの専門家や事業者とのやりとりにも生きてきます。確かな情報とリテラシーが合理的な判断には欠かせない。これも資産運用とビジネスの共通点の一つですね。