九州の北西部に位置し、有田、伊万里、唐津など陶磁器の産地としても知られる佐賀県。近年、ビジネスの場としても注目の的だ。その理由について山口祥義佐賀県知事に聞いた。

多種多様な企業が実感するその価値

山口 祥義(やまぐち・よしのり)
佐賀県知事
平成元年東京大学法学部を卒業後、旧自治省(現 総務省)に入省。多くの自治体、省庁への出向、民間交流で経験を積み、平成27年1月より現職。

「真面目で粘り強い人が多く、離職率も業界平均に比べてかなり低い」「どこへ行くにも便利で、しかも暮らしやすい」「台風や水害が少なく、BCPの観点からも注目の場所」──。

進出企業から、例えばそうした声が寄せられるのが佐賀県だ。しかし、数ある国内の事業エリアの中で、佐賀県について明確なイメージを持っている企業は必ずしも多くないかもしれない。

山口祥義佐賀県知事はこう話す。

「実際に事業活動をスタートされると、さまざまな業種の企業の皆さんがその価値を実感してくださいます。一度拠点を置くと佐賀県のファンになられる会社が多い。これが佐賀県なんです」

付き合うほどに魅力が増していく。そんな佐賀県の魅力を支えるのが、抜群の交通アクセスだ。

「高速道路や鉄道がクロスする位置にある佐賀県はいわば九州における交通の要衝。高速道路を使えば、福岡、長崎、熊本は1時間圏内、九州全域、中国地方も3時間圏内です」と山口知事。加えて現在、県北西部と福岡市を結ぶ西九州自動車道や有明海沿岸道路の整備も進む。

空路については、2016年に愛称を変更した「九州佐賀国際空港」。2015年度の利用者数が60万人を突破し、地方空港の中では高い伸び率を誇る。羽田便、成田便、上海便のほか、夜間貨物便も就航している。

「私自身、出張などでよく利用しますが、佐賀市内からクルマで約20分と近く、無料駐車場も1600台分確保しており、“普段使い”できる空港です」

さらに空港については、福岡空港、長崎空港も佐賀県から十分に利用圏内で、行き先や時間帯によって使い分けられる。

もう一つ、県内の交通インフラとしては、国際コンテナターミナルを有する伊万里港、最大3万トン級の大型貨物船も接岸可能な唐津港も貴重だ。「特にアジア、世界を視野に入れる企業にとっては頼りになる存在。伊万里港は韓国、中国との間で4航路、週5便を運航。神戸港とも国際フィーダー航路でつながっており、そこを経由して世界への輸送が可能です」

世界的軸受メーカーの大同メタル工業は、佐賀県武雄市に進出を決めた理由の一つに、アジアに開かれた伊万里港に近いという点を挙げ、伊万里港を評価。アイリスオーヤマは「中国からの部品調達が容易で、コスト面でも競争力がある」とその有用性を認めている。

イノベーティブな精神が企業の成長の原動力に

充実した交通網で、人とモノの移動をサポートする佐賀県。九州最大都市の福岡からJRで約35分の距離にある佐賀県のロケーションは、「東京における横浜や千葉を思い浮かべると分かりやすい」と山口知事は言う。しかも、地価も安く、比較的ゆとりある会社経営ができるのが、佐賀県だ。

具体的な工業団地としては、例えば「新産業集積エリア唐津」がある。有料道路のICに隣接し、空港や港へのアクセスも良好。強固な地盤の広大な用地(8ヘクタール)が整備されており、精密機器などの製造にも適している。

同様に、「新産業集積エリア有田」も西九州自動車道のICがすぐそばで、伊万里港へのアクセスにも優れている。企業のニーズに応じて、オーダーメイドで開発可能な点も魅力である。

また、圧倒的な交通利便性を誇る鳥栖エリアでも「新産業集積エリア鳥栖」で、22ヘクタールの開発計画が進む。2020年度以降分譲開始予定となっている。

「いずれも自信を持ってお勧めできる質の高い工業団地。サポート体制も充実していますので、まずはご要望をお聞かせいただきたい。そして用地検討の際には、県内の優秀で豊富な“人財”にも、あわせて注目してほしい」と山口知事は付け加える。

冒頭に紹介した企業からの声にもあったとおり、ビジネスの場として佐賀県を見たときに見逃せないのが、その人財力だ。

「会社の経営も突き詰めれば、すべては人に行き着きます。400年の歴史がある有田焼に代表されるものづくりのDNAを持ち、幕末から明治にかけては最先端の技術力で日本の近代化を支えてきた佐賀県人。その根底にあるイノベーティブな精神は、多くの企業の今後の成長を後押しする原動力になると信じています」

交通インフラや事業用地といったハード面と事業活動を支える優れた人財が揃った佐賀県。新たな事業拠点を探している企業にとっては外せない最有力エリアの一つといえそうだ。

抜群の交通インフラと注目の工業団地

アジアに開かれた2つの重要港湾
(左)上海・ソウル・成田便はLCCが就航 (右)九州を東西南北に貫く高速道路のクロスポイント

Q・C・Dのバランスが取れた立地戦略を

小沢智樹
中央ビジネス研究所(株)代表


企業が新たな拠点を形成するときには、Q(クオリティ)、C(コスト)、D(デリバリー)のバランスが重要。どのレベルの製品・サービスを、どの程度のコストで生産、提供するのか。それをいかに顧客に届けるか。その戦略に基づいて進出先を決めるわけです。デリバリーに関わる交通インフラを見る際は、モノの移動はもちろん、人の移動も考慮すべき。交渉や会議をはじめ、事業活動には人の移動が伴うものです。 また、特に海外とビジネスを行う企業にとっては、空路、海路の利便性もポイントとなるでしょう。取引先や製造拠点などと直接つながる便があるかどうかで、ビジネスの効率は大きく変わってきます。立地戦略は事業戦略の要。その重要性はますます高まっています。