株に投資するなら「腹八分目」を守ること
──では、これから本格的に株式投資をしたいという人は、どんな銘柄を選んだらいいでしょうか?
【木村】短期で売買を繰り返すトレーディングは難しいものです。長めに保有して配当と株主優待をしっかり受け取りながら、値上がりを待つ投資のほうが個人投資家にはおすすめ。もちろんさまざまな投資の方法がありますが、私はそう考えます。例えば配当について、高額でなくても安定的に継続しているのであれば、それは経営力の一つの表れでしょう。
──そのほかに、着目すべき点はありますか?
【木村】成長性に特化しているのか、安定成長期にあるのか、大きく二分類してバランスよく資産配分するのが理想です。例えば資本のうち株主が出資している株主資本や、その一部である利益剰余金(内部留保)を気になる数社で比較し、3年程度持つにはどんな配分がいいかを検討するという具合です。また、有利子負債や内部留保金、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)などの各種指標も、「会社四季報」や「日経会社情報」、企業のウェブサイトのIRページなどでチェックしてみてください。
いまあげた銘柄選びの条件に当てはまるのは、地道に堅実な経営を行っているBtoB企業、すなわち企業間取引が主体の企業も多く、知名度は高くなくても、長期的な好展開を示す傾向があるといえます。また、個人投資家の方であれば、株式市場をよりシビアにとらえている機関投資家や海外投資家の持ち株比率が少しずつ増加傾向にある企業というのも一つの指標になるでしょう。
──株とうまく付き合い、大失敗しないコツはあるでしょうか?
【木村】ご存じのとおり、現政権はインフレ政策を掲げているために、資産を一定額、物価に連動した株式などに変えておいたほうが無難であることは確かです。ただ、儲けに関しては「腹八分目」にしておくことがベターだと思います。株価の上昇で株式投資ブームを迎えると「よし自分も」となる。売却益を出すことに成功する。気持ちが大きくなって「もっともっと」と繰り返す。やがてドカンと暴落に見舞われる。後悔先に立たず──。
株で夢のような大儲けをすることは、オリンピックで金メダルを獲ることと同じくらい難しい。まして株のプロではない一般の個人の方が、それを狙うのは得策ではありません。
落ち着いて情報を吟味し「信頼関係を結ぶ」好機
──株式市場の今後については、どのように見ていますか?
【木村】直近でいうと、まず米国の新大統領がどんな経済政策をとるかによって、日本市場の株価動向も変わってきます。また欧州でも独・伊・仏で今秋から来年にかけて選挙が続き、それによっても株価は変動するでしょう。いずれにせよ為替水準も円高傾向が強まり、株式市場は上昇一辺倒というわけにはいかなくなりました。大きく値下がりするマーケットリスクにも備えなければなりません。
でも、そういう時ほど落ち着いて企業発のIR情報を吟味できるでしょう。個人投資家が自分に最適な銘柄を選ぶには、チャンスの時期ともいえます。
──最後に読者へのメッセージをお願いします。
【木村】明日、何が起こるか分からず、道しるべのない時代を迎え、一人一人が自分で状況判断し、サバイバーとなることが求められています。それは投資においても同じ。投資先をしっかりと見極めてください。株主になることは本来、その企業と信頼関係を結ぶこと。IRフェアやセミナーも活用し、ぜひ経営者の言葉も直接聞き、自分が納得でき、信頼できる企業を見つけてほしいと思います。
株主になるのは本来、その企業と信頼関係を結ぶこと。
木村佳子(きむら・よしこ)
日本IRプランナーズ協会理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科(専門職MBA)修了。認定国際テクニカルアナリスト、1級FP技能士。くらしとしごと生活者フォーラム代表理事も務める。著書に『それでもやってみたい人のはじめての株! 入門の入門』(明日香出版社)ほか。