普遍性の中の本質を見極めることが肝心

お客様の普遍的な願いに取り組み続けた成果が本物の独創性でした(左:吉永社長)
グローバル化が進む中、「物事の本質」を見極めた教育を実践しています(右:赤井学長)

【吉永】「普遍性の追求こそが独創性を生む」。私はそう思っています。一例が、当社の運転支援システム「アイサイト」です。「事故を防ぎたい」というクルマを運転する人にとって普遍的な願いに応えたシステムで、5年前に本格的な普及に漕ぎ着けました。実はR&D部門では、その20年も前からずっと研究に取り組んでいました。経営が厳しい時代には研究費を削ったこともありましたが、彼らは実を結ぶかどうか分からない研究をコツコツと続けていたんです。

20年もの間、ただ事故を減らしたいという普遍的な願いが彼らを支え、結果的に独創性あるシステムが誕生した。独創性は普遍性と表裏一体なのです。

【赤井】吉永社長がおっしゃる「普遍性」は私もよく分かります。つまり、「物事の本質」を見極めるということですね。高等教育の現場でもグローバル化が叫ばれる中、本学には何を求められているのか、どんな教育をしなければならないのか、その本質が肝心だと思っています。

國學院大學の和室教室では、日本文化を体験しながら学ぶ「國學院科目」を開講している。写真は「和の心・技・体(礼法入門)」の様子。

例えば今年、全国の大学でも珍しい54畳の和室教室をつくり、和歌や将棋など日本の伝統文化を教える授業を開始しました。グローバル化に逆行するように思う方もいるかもしれませんが、これこそが本当の意味でのグローバル化です。海外の文化を学び、世界に飛び出す人を私は「プッシュ型人材」と呼んでいます。一方で、日本文化を学び、日本の魅力で海外の人を引きつける「プル型人材」も育成したいと考えています。

【吉永】なるほど。以前、世界各国の舞踊を観る機会がありました。華やかで動きがある海外の踊りに比べ、日本の踊りは動きが小さい。人々の反応が心配でした。ところが、いざ日本の能が披露されると、静寂の中にある美しさがひしひしと伝わり、客席から大きな拍手が起こったんです。海外の踊りに、いわば「動」の美しさがあるなら、日本の踊りには「静」の美しさがある。こうしたことを我々日本人は忘れてはいけませんね。

「合意形成」こそが組織運営の鉄則

【赤井】しかし大学のグローバル化にしても、組織全体で理念を共有し同じ目標に向ってまい進することは、一筋縄ではいきません。

【吉永】私も経営においては社内での「合意形成」が最も重要だと思っており、同じ話を何回も社員に伝えるよう心がけています。経営者は社員を前に話をする際、つい「目新しい話を」「前回とは違う話を」と考えがちです。しかし、自身が重要だと感じたら根気強く何万回でも繰り返すことが合意形成につながる。それを心がけなければ、当社の場合もクルマの個性より短絡的に販売台数の拡大を追ってしまう危険性は否めないと思います。

【赤井】大学改革においても、その本質はどこにあるのか、教職員に絶えず同じ話をして、方針にブレを感じさせないことが必要だと感じています。これからもお互いに個性輝く組織として頑張っていきましょう。