渋谷の地で歴史を刻んできた國學院大學の赤井益久学長。2014年に渋谷区恵比寿へ本社を移し、好調な業績を上げている富士重工業(スバル)の吉永泰之社長。2人が独創性の源泉について語り合った。
(左)吉永泰之●よしなが・やすゆき
富士重工業株式会社 代表取締役社長
(右)赤井益久●あかい・ますひさ
國學院大學 学長

際立つ個性の発揮が持続性につながる

【赤井】富士重工業さんは自分達が提供する価値として「安心と愉(たの)しさ」を掲げていますね。なぜ「楽」ではなく、あえて「愉」という字を使われたのでしょうか。

【吉永】表面的に楽しむのでなく、乗る人に心の底から“愉しんで”いただきたい。そんな思いから「愉しさ」としました。

【赤井】素晴らしいですね。私の専門は中国文学ですが、「楽」は、音楽に合わせ歌い踊る物理的な楽しさ。それに対して「愉」は、心の底から納得している楽しさという意味を帯びた字です。

【吉永】ありがとうございます。國學院大學さんも、大学の使命とされている「3つの慮(おも)い」では「思」でなく「配慮」の「慮」の字を使っていらっしゃると聞きました。

【赤井】はい。「3つの慮い」とは「伝統と創造」「個性と共生」「地域性と国際性」それぞれの調和を意味し、「慮」の字には、相手の立場を慮(おもんぱか)りつつ自分の主張をぶつけ、協調を図るという意味があります。

ところで私は、御社の中期経営ビジョン「際立とう2020」の、「際立とう」という言葉にも共感を覚えました。

【吉永】当社の年間販売台数は100万台弱ですが、今後、何倍もの拡大を目指すべきなのか。いや、違う。それでは個性を捨てざるを得なくなってしまいます。自動車メーカーとしては小規模な当社が持続的に成長していくため、2020年のありたい姿を「大きくはないが強い特徴を持ち質の高い企業」とし、お客様の心の中で「際立つ」存在になろうと宣言しました。

【赤井】本学は「21世紀研究教育計画」で「個性と共生の調和」というミッションを掲げています。國學院大學は明治維新の真っただ中に創立された大学です。創立の根底にあったのは、欧米を模倣するだけでなく、自分の拠って立つ基盤を認識した上で世界に学ぼうという考え方。これは、今日のグローバル化においても同じことがいえます。だから、今でも自国を見つめながら独創性を育む教育に力を入れているのです。