「Q・C・D」の観点から
生産拠点の最適展開を

「ともあれ、これで日本メーカーの生産体制は正常化しつつあると、私はとらえています。従来は極端な円高のため、日本国内で行うべきことも中国をはじめ海外で行わざるを得ず、いびつな体制だったのです」

海外生産移転が進む状況にあっても、当初は日本国内に温存された拠点もあった。相応の役割を担っていたからだ。ところが、それらも現地化の一環として海外へ移されてきたのである。

その「いびつな生産体制」の正常化は進みつつあるものの、「本来的には為替に追随するばかりでなく、より戦略的な拠点の展開が望まれる」と小沢氏は指摘する。例えば、中国から日本へ戻すのでなく、なかには他の新興国へ移す企業もある。それが現時点で最善の戦略との決断かもしれないが、仮に安い人件費を求めてのことなら、いずれ中国での経験を繰り返す事態も想像に難くない。

国内生産回帰を含め、生産拠点の展開で小沢氏が勧めるのは、「Q・C・D」の切り口から考えることである。Qはクオリティ、Cはコスト、Dはデリバリだ(図2参照)。

ハイエンドの製品なのか、ボリュームゾーン向けなのか。市場との近接性はどうなのか。人件費もさることながら、貿易コストを含むトータルコストはどうなのか。「Q・C・D」のベストミックスで適地適産の基本に立ち返ることは成長戦略の基本でもある。

真に意義ある国内回帰へ
日本の役割を明確化する

「例えばあるエアコンメーカーは、2013年から国内向けモデルの生産を中国から日本へ順次戻しています。もちろん円安も大きな要因ですが、リードタイムを短縮し、夏の天候に左右される需要に応じて生産しやすくする狙いもあるそうです」

小沢氏は、電子部品の大手企業が国内既存工場で新棟を建設する例も挙げる。その目的は、中国生産の約3割を日本へ移すことに加え、スマホなどに搭載される先端的な電子部品の増産と、自動生産化への技術開発だ。

「国内外どこでも高品質な製品を作るため生産を自動化する技術の確立を目指す。つまり国内にマザー工場を設置する戦略です」

国内拠点が国内市場だけをターゲットにするとは限らないわけだ。むしろ現在も将来も、多くの製品の成長市場は海外にある。そのことを踏まえつつ「Q・C・D」を検討し、日本国内が最適地に選ばれてこそ、真に有意義な国内回帰と呼べるだろう。

「原則としては、為替がどうあれ日本国内で付加価値の小さい製品を作ることには無理があります。国内生産拠点の位置づけ、役割を明確化したうえで運営する方向性が望まれます」

国内で役割を担うべき拠点とは、かつて海外生産移転が進行しても、当初は日本国内に温存された拠点にほかならない。小沢氏によれば「研究開発拠点と一体化し、新しい技術や製品を生み出すイノベーション拠点」「人材育成や技能継承の拠点」「最新鋭の生産設備と最高の生産ノウハウが確立された拠点」、そして先の電子部品メーカーにも見られる「マザー工場」や、「コア部品の生産拠点」「幅広く国内外の市場ニーズに柔軟に対応できる生産拠点」などがある。国内回帰においては、これらを戻すことが優先されるべきである。