生産の国内回帰――ここ数年、よく耳目にするフレーズだ。この潮流を受け、国内の各地域による誘致活動も熱を帯びてきた。そこで国内回帰をめぐる環境の変化や、国内生産を経営の成功につなげる戦略的な発想について、経営コンサルタントの小沢智樹氏(中央ビジネス研究所代表)に聞いた。
企業は新たな立地先で“地域にとって大切な一社”になってほしいと思います
小沢智樹●おざわ・ともき
中央ビジネス研究所株式会社 代表
経営コンサルタント(中小企業診断士)
大手市場調査機関において市場調査・分析業務を担当。2012年に独立し現職。経済産業省認定経営革新等支援機関。特定非営利活動法人NPOビジネスサポート理事、中小企業庁「ミラサポ」登録専門家を兼任。主に中小企業の事業計画フェーズにおけるFSやコンサルティングを手がけ、製造業の支援に注力。最近の国内生産回帰の状況と今後の国内ものづくり展望についても調査・研究。
ポジティブに動き始めた
国内設備投資と工場立地
企業の設備投資が復調している。
大企業については日本政策投資銀行(DBJ)の「全国設備投資計画調査(大企業)」(2015年6月)によると、2015年度の国内設備投資額は製造業で24.2%増、非製造業でも8.7%増となり、全産業で4年連続の増加である。
中小企業については商工中金の「中小企業設備投資動向調査」(2015年1月)によると、2014年度の実績(見込み)として設備投資「有り」とした企業の割合が51.2%で5年連続の増加。7年ぶりに50%台を回復した。特に製造業は「有り」が60.6%と高い割合である。また、2015年度の当初計画でも、設備投資「有り」とする企業の割合が5年連続で前年度を上回った。
再びDBJの調査結果(大企業)によれば、2015年度における製造業の海外設備投資は前年度比4.1%増。前掲の国内投資の伸び率のほうが海外を上回り、海外/国内設備投資比率は2年連続で低下する。さらにDBJは、「中長期的な国内外の供給能力の見通しについては、相対的に海外を強化する企業は多いものの、2012年をピークに低下傾向にある。一方、内外ともに強化する企業が増勢にあり、海外強化の流れは一服」としている。
DBJや商工中金の調査結果が示す傾向と、国内の工場立地との相関もうかがえる。経済産業省の「平成26年における工場立地動向調査について(速報)」(図1)によると、2014年1月~12月期の工場立地件数(電気業を除く)は1021件で、前年比22.9%の増加。面積ベースでも増加となった。1000件を超えたのは6年ぶりだ。移転でない立地(自社の既存工場の全部または一部を廃止する計画を伴わない新規立地)も全体の67.6%に達した。
もう中国で生産しても
利益を確保できない
国内設備投資や国内工場立地の増加は、一歩踏み込んで生産の国内回帰を表すと見てよいのだろうか。
中央ビジネス研究所の代表で経営コンサルタントとして製造業の支援にも注力する小沢智樹氏は、より直接的なデータを示す。
「経済産業省が2014年11月から12月にかけて行った、国内回帰に関する調査があります。それによると『海外生産拠点を有する企業で、過去2年間に海外で生産していた製品や部品を国内生産に戻した企業』の割合は、13.3%でした」
調査サンプルとなった企業は738社で、13.3%は実数にして約100社である。これだけでも簡単には無視できないだろう。また小沢氏は、中国からの回帰を助長している、極めて切実な要因を指摘する。
「第一に為替の問題があります。中国の人民元の価値は、2012年から15年にかけて47%も上昇しました。一方、日本の円は人民元に対しても米ドルに対しても大幅に下落しています。中国で生産したモノを逆輸入するというモデルでは、とても利益を確保できなくなりました」
加えて「カントリー・リスクもある」と小沢氏は言う。
「まず人件費の上昇です。中国では2006年からの8年間に、主な都市の最低賃金が平均で2倍以上になりました。これに伴って、少しでも賃金の高い職場を求める労働者が集団で工場からいなくなる事態も起きています。もはや低廉な労働力を中国に求めるというロジックは成り立ちません」
ほかにも、政治・商習慣の成熟度が低いこと、債権回収におけるトラブル、利益移転の制限など、チャイナリスクの要因は数多い。