「心の相続」にも
目を向けてほしい


内田麻由子氏作成の資料を参考にまとめたもの。
──相続税がかかる、かからないを問わず、内田さんはこれまで、遺言の大切さについてもお話しされていますね。

【内田】遺言はスムーズな遺産分割にとって非常に重要なものですが、これも誤解が多いですね。基本的なところでは、「遺書」と勘違いされているのか、遺言を書くのは一生に一度と思っている人がいます。もちろん遺言は何度書き直しても構いません。元気なうちに書いておいて、家族や財産の状況などが変わったら内容をあらためればよいのです。

また、「遺言書は生前誰にも見せてはいけない」というのもよくある誤解です。テレビドラマなどで、死後、重々しく開封するシーンのイメージが強いのでしょうか。私はむしろ、遺言を書いたら家族が集まる機会などに公開して、その内容や意図について説明することをお勧めしています。遺言があっても、もめるケースは決して少なくありません。単に遺産の分割方法を決めるだけではなく、そこに込めた気持ちを伝えることが大切です。遺言には「付言」として自由に言葉を添えることもできますから、そこに感謝の思いや分割内容の理由などを記してもいいでしょう。

──実際に相続のトラブルやもめ事は増えているのでしょうか。

【内田】家庭裁判所で争われた遺産分割事件だけでも、この30年ほどで2.5倍くらいになっています。その遺産額について見てみると、75%は5000万円以下。繰り返しになりますが、相続や相続税はお金持ちの人たちだけの問題ではないのです。

最近は個人の権利意識も高まっていて、親兄弟もそれぞれ離れて暮らしているケースが多い。そうしたなか、お互いの事情や心情を斟酌することなく、「もらうべきものはもらう」というスタンスの人がやはり増えているのではないでしょうか。

──誰しも、兄弟などとのトラブルは避けたいもの。アドバイスがあればお願いします。

【内田】先ほど情報収集の話がありましたが、勉強した知識などは、家族、兄弟みんなで共有してほしいですね。「自分だけ得をしたい」というのは当然トラブルの元になります。また遺言づくりも、家族でオープンに話し合うのがいいでしょう。

具体的な動きとしては、まず税理士などに相続税の試算をしてもらうこと。それが分かると、生前贈与なども具体的に検討できます。その上で弁護士などに相談しながら、皆が納得する遺言書を作成するのが賢いやり方です。遺言書の作成というと、すぐに公証役場を思い浮かべる人がいますが、公証人が遺産分割の内容を決めてくれるわけではありません。それぞれが自分たちに合った内容を考えなければならないのです。また、もし相続が発生したら、できるだけ早く専門家に連絡してください。特に男性には「少し自分で調べてから」という人が多いのですが、相続税には死亡した翌日から10カ月以内という申告期限もあります。

そして最後に加えるなら、ぜひ「財産の相続」ばかりでなく、「心の相続」についても考えてほしいと思います。親が子供たちに残せるものは、お金や不動産だけではありません。目には見えない“想い”もかけがえのない宝物。それは、財産と同様、ときにそれ以上に、豊かで充実した人生の糧となるに違いありません。