食べ過ぎや飲み過ぎ、運動不足、ストレス。日々、積み重ねられる悪習のツケが現れやすいのが、「胃腸」だ。新宿大腸クリニックの後藤利夫先生は、「全身の健康を守るカギは、大腸が握っている」という。多忙を極める年末年始、体を守るための心がけをお伝えする。

バランスが崩れている
現代人の免疫力

後藤利夫●ごとう・としお
新宿大腸クリニック 院長

1988年、東京大学医学部卒業。東京大学附属病院内科助手などを経て、新宿大腸クリニックを開業。「大腸がんの撲滅」を掲げ、独自の無麻酔・無痛大腸内視鏡検査法を開発するなど、精力的に活動中。

仕事のストレスで胃がキリキリと痛んだり、つい飲み過ぎてお腹の調子を崩したり──。こうした小さなトラブルは日常的に起こっているため、よほどの変調でなければ、あまり深くは意識しないという人が大半だろう。

だが、あなどってはいけない。近年の研究により、胃腸、とりわけ大腸と全身の健康との深いかかわりが、徐々に明らかとなってきたのだ。

「大腸にはたくさんの菌がすんでいて、人によって差はありますが、その数はおよそ100種類ほどだといわれています。以前から、これらの菌が整腸作用に役立っていることは知られていたものの、特別に注目されていたわけではありませんでした。しかし、研究が進むうちに、実は免疫力を大きく左右することが解明されてきたのです」

新宿大腸クリニックの後藤利夫先生は、説明を続ける。

「現代人は免疫力が落ちているとよくいわれますが、より正確に表現すると、バランスが崩れているということです。ウイルスやがんに対する細胞性免疫が低下している一方、花粉や食物アレルギーなど、外からの攻撃に関しては過敏に反応してしまう。この2つの免疫は、いわばシーソーのような関係です。傾いてしまったバランスを戻すには、悪玉菌を減らし、善玉菌をどう増やしていくのかが、重要なポイントとなります」

悪玉菌がはびこると
体の中は「腐敗」する!

近年は中高年にかぎらず、若年層にも腸内環境の乱れは広まっているという。悪玉菌が増えると、いわば腸内が「腐敗」した状態になり、さまざまな全身の症状につながる。例えば、「便が悪臭を放つようになった」などの変化は、悪玉菌がはびこっているサインの一つだ。

そもそも悪玉菌が増えると、どうなるのか。後藤先生いわく、「腸内の腐敗が進む」。具体的には、便秘や下痢、さらには腐敗した便から発生する有害な物質が血管を通って体中をめぐり、頭痛やめまい、肩こりなどの不調の元凶にもなる。単なる疲れや加齢のせいだろうと高をくくっていると、恐ろしいことに、もっと深刻な疾患に至るケースもあるというのだ。

悪玉菌がはびこってしまう要因としては、第一に「乱れた食生活」がある。暴飲暴食がよくないことは誰もが理解しているだろうが、それは、次のような理由によるものだ。

「自分の体に適した量だけ食べていれば、すべて分解され、小腸でちゃんと吸収されます。若い頃、どれだけ食べても太りにくいのは、体がそれだけの量を欲しているからです。しかし、年齢を重ねれば消化吸収機能は低下しますから、そのまま同じペースを続けていいはずがありません。食べ過ぎて消化しきれなかった食べ物は、大腸で悪玉菌のエサになります。また、ビールなどを飲み過ぎて下痢をすると善玉菌を洗い流してしまう。こうして、ますます悪玉菌の増加につながるというわけです」

また、多忙な日々が続くと、「肉でパワーを補おう!」というモードになることもあるだろう。「確かに肉を食べることで筋肉がつき、元気も出るでしょう。ただ、あくまで、ほどほどにとどめてください。悪玉菌は肉が大好物なのです。代わりに、食物繊維を積極的に摂ることを心がけてほしいと思います。食物繊維は、善玉菌が増えやすい環境をつくりますから」

自分の腸内で、今、何が起こっているのか。頭の中で、善玉菌と悪玉菌が勢力を競っている様子をイメージしてみてほしい。確かに肉の魅力は捨てがたいが、その代償として腐敗が進んでしまうのなら、グッとこらえる気持ちも強まるのではないだろうか。