【別府】基準値とされる一定の幅は、あくまで統計の正規分布に基づくものです。したがって基準値より上・下でも小幅なら、あまりとらわれすぎないほうがいいと思います。また、例えばコレステロール値が長期的な生活習慣を映し出す半面、中性脂肪値は検査前の数日間だけの食事にも影響されます。生活には波があり、検査項目の一部に短期的な数値の増減があるのも当然なのです。ただ基準値から大幅な隔たりがあったり、基準値内でも3年程度の経過の比較で悪化傾向が明らかな場合には、問題視せざるを得ません。

【髙橋】そして、いわば「個人の基準値」も考慮すべきです。ある値が体質的に基準値より高め・低めでも、健康な方々はいらっしゃいます。基準値内に収めようと無理をしては、逆効果となってしまう恐れもあります。

ただし、やはり経年変化の観察は大切です。外来診療の場では「どうしてこんな状態になるまで……」と驚くほど放置された末に、初めて異常が発覚する例も実際に見られます。年1回のドックで早期発見や予防が可能な病気もたくさんあり、病気の端緒をつかむ手段の一つが経年変化を追うことです。

【土屋】気になる数値は、結果説明の面談でよくお尋ねになるとよろしいでしょう。ですから、面談が充実したドックを選ぶことも一つのポイントです。経年変化については、もし受診施設が変わっても、前年の結果票を持参すれば、比較しながら説明や指導が行われるはずです。

双方向コミュニケーションで
人間ドックの価値を高める

検査技術は日進月歩。機器の高度化は著しく、「見えなかった異常をとらえる能力が急速に向上している」と、髙橋先生はいう。また近い将来、人間ドックへの導入が期待される新たな検査として、土屋先生は認知症ハイリスク群のスクリーニング、別府先生は、現状では長時間を要する緑内障の視野検査を挙げる。どちらの病気も早期発見が進行の緩和や治癒に貢献する。人間ドックの恩恵は、今後も大きくなっていくだろう。

最後に3名の専門家が、健康こそ強力な武器となるビジネスパーソンたちへアドバイスを贈る。

【土屋】プロスポーツ界で数年前、まだ30代の方々が心臓や脳の疾患で他界した出来事をご記憶の方も多いと思います。若いからと油断は禁物。毎年の人間ドック、それに数年ごとの脳ドックなども受けるに越したことはありません。健康管理のアイテムとして、有効に利用してほしいと思います。

【別府】面談の担当医師との双方向コミュニケーションで検査結果をよく理解し、その後に生かす。これが人間ドックの価値を、受診者ご自身で高める方法です。しかし大前提は、どんなドックも全身をくまなく調べるのは困難だということ。だから自覚症状には、ぜひ注目しておいていただきたい。何か普段と比べて異常を感じたときは、早く診察を受けるようお勧めします。

【髙橋】ドック選びに迷ったときは、日本人間ドック学会による機能評価認定施設なら、まず安心でしょう。あとは口コミも大事です。仕事への活力を高めるためにも、ぜひ人間ドックでご自身の健康を確かめてください。