「要介護」となる主な原因には、脳血管の疾患や骨折など、きわめて突発的なものも多い。「そのとき」になって戸惑わないための準備について、介護事業を手がけるケアリッツ・アンド・パートナーズの宮本剛宏社長に聞いた。

親が望んでいる形を
いまから知っておく

「ご両親がお元気でも、10年先、またはもっと先の将来、万が一介護が必要となったときに希望なさる環境や体制を、いまからお聞きしておくことですね」

これが、ケアリッツ・アンド・パートナーズの宮本剛宏社長が勧める準備の第一歩である。在宅介護を行い、さらにヘルパーの訪問介護サービスを導入するか。あるいは施設での介護を選ぶか。宮本社長は、要介護となった時点で当人の希望、家族の意見、介護の専門家の判断が一致せず、必要な介護を即座にスタートできないケースも見てきた。

「また昨今、老老介護が増加していますが、高齢者同士といっても、60代の方が自分の親を介護するのと、夫婦や兄弟による、80代の方同士の介護では、実情が大きく異なります。しかも介護の身体的な負担だけが問題なのではありません」

そもそも介護保険や専門のサービス事業者が控えているにもかかわらず、それらが有効利用されない例も、年齢が高くなるほど目立つというのだ。原因の一端は、年をとれば誰しも制度の把握や手続きが煩雑に感じられ、利用へのハードルが高くなってしまうことにある。

一方、「私は元気なのだから自分一人で介護できる」という思いも、むしろ年齢に伴って強くなる傾向にあるようだ。

「しかし80代の方にとって、介護を担うことが困難なのは当然でしょう。それどころか、ご自分では元気とおっしゃる方も、実際には介護事業者の視点から拝見すると、何らかのサポートを受けるべき健康状態にあることが多いのです」

この場合、外部の力を活用するよう説得できるのは「身内しかいない」と宮本社長は言う。そこで早くから介護の話題に親子で向き合い、「そのとき」になって混乱しないよう、お互いが心の準備を固めておくことこそスタートラインとなる。別居の親子なら、なおさらだ。

介護の公的制度や
福祉用具などの情報収集を

心の準備の一助として、特に子供側に求められるのは、介護保険制度や介護サービスについて、ある程度の具体的な知識を得ておくことだ。

「必ずしも分厚いマニュアルを読む必要はないと思います。雑誌などに載っている記事を、定期的に読んでおくだけでもいいでしょう」

例えば、遠方の実家で暮らす高齢の両親のことが気がかりだとしよう。いま「要介護」でないのは明らかでも、年齢的な身体の衰えが「要支援」と認定され、ヘルパーによる生活援助(家事など)を受けられる可能性はある。こういった情報も、いつか役に立つかもしれない。

すでに介護の必要性が見えつつある場合は、自治体が設置している「地域包括支援センター」に相談をする手もある。同センターは、高齢者福祉に幅広く対応する窓口で、介護保険の申請手続きもサポートしている。

合わせて多様な福祉用具など、介護を助けるハードの情報も集めておくと心強い。介護保険で貸与される用具や、購入費用の助成もある。また消費税の免除対象や自治体独自の補助対象になる製品もあるので、確認しておくといいだろう。

「要介護者と介護者の負担が軽減される新しい製品や技術は、前向きに生かしたいですね。私たちも訪問入浴サービスのための設備が、よりコンパクト化されることなど、さらなる進歩に期待しています」

ケアマネやヘルパーは
利用者側で選択できる

宮本剛宏●みやもと・たけひろ
株式会社ケアリッツ・アンド・パートナーズ
代表取締役社長

1979年生まれ。慶應義塾大学卒業後、日清紡績(株)、ITコンサルティング会社に勤め、2008年より現職。ITによる社内事務の効率化など従来の介護業界にない取り組みで、ヘルパーの待遇も介護の質も向上させながら事業を拡大中。座右の銘は「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」。

介護保険を申請すると、訪問調査や主治医の意見書をもとに要介護度(要支援度)が認定される。その後、介護サービス全般における扇の要となって、ケアプランの作成や実行の管理など重責を担うのが、ケアマネジャー(ケアマネ)だ。

「ただし、ご存じない方も多いのですが、利用者側がケアマネを選んだり、途中で替えたりもできるのです。プランの変更も希望できます。このことは、ぜひ覚えておいてください」

ケアマネは、介護に関する最新知識を備えていることはもちろん、人間的にも信頼のおける人材を選ぶよう努めたい。

「ヘルパーの派遣などを行う介護事業所も選択できます。ベテランだから良い、若いから頼りないという先入観は持たないようにしてください。ヘルパーには筋力やスタミナが必要であるうえ、やはり最新のノウハウを柔軟に吸収していかないと、ベストな介護はできないのです」

ヘルパーの質は、年齢で決まるわけではない、ということである。

「ヘルパーが訪問を開始する前に、事業所の責任者がご家族と面会します。責任者の言動に表れる人物像がヘルパーの質にも反映されるはずですから、まずは責任者をしっかり評価することが大切です」

介護の土台と呼ぶべきは、家族の結束や当事者意識、それらに基づく迅速で的確な決断と行動だろう。そして優れたプロの介護人材や、クオリティ・オブ・ライフを高める福祉用具などハード類は、介護の土台の上に立つ柱といえる。一歩ずつでも話し合いや情報収集を進めておくことで、「そのとき」が来ても納得度がより高い介護を実現できるに違いない。