古くからの得意先が、
なぜか離れていく・・・

業務用資材の製造販売を手掛けるユニバーサル(仮称)がこの事業に乗り出したのは四半世紀ほど前のこと。ユニバーサルが取り扱っている商品には堅調なニーズがあるため、地域一帯に広く取引先を得て順調に売り上げを伸ばし、それに伴い各部門の人材増強を続けている。

ところが最近、気になる兆候があることに営業部長は気付いた。営業部では毎月の取引額を顧客ごとに集計して上位20社の順位表を出している。事業を立ち上げた頃に営業部長が自ら開拓してきた古くからの顧客も何社か上位をキープしており、彼はその取引先の順位を毎月楽しみにしていた。その中の1社、ヤマオー(仮称)が突如リストから消えたのだ。営業部長は営業担当を呼び事情を聞いてみたが、担当も今一つ理由がわからず、いきなり競合他社に乗り換えられてしまったと言う。

調べてみると、取引額が急減した顧客は他にも何社かあり、それらの顧客が乗り換えた企業は特定の1社ではなく複数の相手であることがわかった。これは、ユニバーサル側に原因がある可能性が高いと、営業部長は焦りを覚えた。この問題について、営業部全体の重要な課題として、原因を究明して対策を講じることが決まった。

新しい担当者に、
顧客の情報が引き継がれていない…

では、なぜヤマオーはユニバーサルから離れてしまったのか。ここからはヤマオーの視点で考えてみよう。

ヤマオーは、ユニバーサルが創業間もない頃、現在の営業部長が飛び込みで訪れ、その熱意とツボを突いた商品の提案を受けて、試験的に発注したのが取引関係の始まりだった。商品の品質や納期は全体的に悪くないし、ヤマオーの事情を察して絶妙な提案をしてくれる上に、たまたま発生した不具合にも営業部長が精力的に対処してくれたことに好感を持ち、自然に取引額が増えていった。数年後にヤマオーを担当することになったユニバーサルの営業マンも、営業部長の直接指導もあってかヤマオーの事情に通じており、以後ずっと関係を深めてきた。

変化は半年前、ユニバーサルが営業部を大幅増員したときに生じた。今までの担当営業に代わって担当になった若手営業マンは、ヤマオーの事業内容を知らなさすぎた。今までの担当者は、かゆいところに手の届く提案をしてきたのだが、そうしたノウハウは新しい担当者には引き継がれていなかったのだ。一度指摘したことを何度も繰り返すことも多いし、クレームに対する対応も遅い。担当者の携帯電話がつながらず会社に電話しても、「担当者が不在でわかりません」と言われるだけだった(図1)。

業務に支障をきたすことが多くなったヤマオーでは、新たな仕入れ先を検討し、以前から提案を繰り返してくれているオリエンタル(仮称)に発注することにした。


図1:顧客が離れていく理由

顧客に関する知識が、
属人的になっていないか?

ユニバーサルの失敗は、どこにあったのか? 顧客対応が極めて属人的であったにも関わらず、事業の成長に伴い人員を増やしたときに、顧客に対する知識が共有されず、引き継がれなかったことにある。

顧客ごとに、ローカルルールとも呼ぶべき「顧客独自のルール」が存在するものだ。例えば、不具合の製品を納品した際に、「訪問して先ず謝罪し、その後に代品を手配する」のと、「まず代品を確保し、納品とともに謝罪する」のとどちらが良いかは、顧客によって違うだろう。そうした顧客独自のルールへの対応は、通常属人的なものとして担当者の中に眠っており、新たな担当者にはなかなか受け継がれないものだ。

図1の「顧客が離れていく理由」の裏返しで、顧客が求めているのは、
●自社に関する十分な知識と理解
●自社に最適な提案
●クレーム等に対する迅速な対応
●誰でも自社のことを理解してくれている全社体制
といったことだ。

顧客の情報を、営業担当者だけでなく全社で共有することが、質の高い顧客体験につながる。しかし、顧客ごとに独自性があり、ともすれば膨大な情報量となる情報を、アナログ的な手法で管理するのは不可能に近い。そこで活用したいのが、CRMツールだ。CRMツールは、「客離れ」を防ぐどころか、「優良顧客」を増やすことにもつながる。

※CRM(Customer Relationship Management)とは、顧客や商談に関する情報をシステムで一元管理し、それらを従業員の間で広く共有してさまざまな形で活用することにより、企業の売り上げを向上させる仕組みのことを指します。
※記事内事例に登場する企業名は、全て実在の企業ではありません。