時間と費用をかけるなら、より快適で、より精度の高い健診を受けたい。そんなニーズに応えて、人間ドックは多様化している。日本人間ドック学会理事で、三井記念病院総合健診センター特任顧問として多くのビジネスパーソンを診断している山門實先生に、最新の人間ドック事情を聞いた。

「喫煙」と「肥満」は出世に響く──。米国のこんな人事評価を聞いたことがある方は多いのではないか。今や健康管理は、ビジネスパーソンの必須スキルの一つとなっている。

「健康状態を含めた安全管理は、人事考査における重要な評価点になっています。その影響か、優秀なビジネスパーソンほど、健康への意識が高いようですね」。山門實先生は近年の人間ドック事情をこう話す。

ビジネスパーソンの健康意識の高まりを裏付けるデータがある。日本人間ドック学会の実施しているアンケート調査によると、人間ドック健診の受診者数は、1984年の41万人から、2012年には約7.7倍の316万人に拡大。中でも働き盛りの40歳代から、50歳代が受診者数の大半を占める。

「最近では、診療スペースの快適性や機器の性能にこだわったエグゼクティブ向け人間ドックも多くなっています。年1回の人間ドックに加えて、経営者や役員向けの特別な健診を用意してほしいという大企業からの要望も増えてきました」

高性能な健診は、そのぶん費用も高い。導入は、個人と企業、双方にとって負担増に思えるが、山門先生は「快適性や診断の精度にこだわる方は、着実に増えているというのが実感です」と話す。

「ほとんどの健康保険組合はバブル崩壊後に財政状況が悪化し、人間ドックの受診費用の補助を廃止、あるいは減額してきました。受診者の自己負担が増えた結果、せっかく受けるなら『より良い場所で、より良い診断を受けたい』というニーズが生まれてきたのではないでしょうか。また企業からすれば、重責を担う役員の健康は、経営に直結するという危機意識が以前にも増して強まっています」と説明する。

「もしも誰かががんにかかると、その医療費や傷病手当は1000万円に上ると試算されます。ビジネスの機会損失も重大です。これらのリスクを回避する手段として、高級人間ドックが活用されているのです」