“五輪ダンサー”は驚くほどの愛妻家
一流の男たちのパートナーへの感謝の伝え方を追ってきた本連載。最終回に登場していただいたのが、2012年ロンドン・オリンピックのオープニングセレモニーで見事なダンスを披露し、世界から称賛を浴びたアクラム・カーン氏だ。
バングラデシュ人の両親のもとロンドンで生まれたカーン氏は、幼少期から北インド古典舞踊のカタックを学び、大学在籍時にコンテンポラリーダンスに目覚める。2000年に自身のカンパニーを設立すると、シルヴィ・ギエムやシディ・ラルビ・シェルカウイといった、一流のダンサーや振付家との共演を果たす。その創作は映画監督のダニー・ボイルの目にも留まり、2012年夏のロンドン・オリンピックでは、開会式のダンスパートの振り付け・演出担当に抜擢され、自らも出演。総勢50名による舞台芸術は、エミリー・サンデーの透き通った歌声と相まって何とも美しく、神秘的で素晴らしいものだった。
「妻には毎日のように感謝を伝えています。私はバングラデシュ系民族で、インドと似たようなカルチャー。地元の人々は小さなことでも感動するというか、感情的な人が多い。ちょっと切り傷でもしたら、生死の境だ!大事件だ!みたいな騒ぎになる。それくらいドラマチック。逆に、僕の妻は日本人なので、サムライ文化。いつも冷静で、感情を口に出すタイプではないのです。だから感謝を口にするのは僕のほうが多いですね。ちょっと言い過ぎと言われます(笑)」
世界的に著名なアーティストとなったカーン氏だが、その一方で徐々に奪われていくものがある。それが時間だ。
「時間というのは人間が持ちうる最も貴重なものだと思う。だから、僕たち夫婦の感謝の伝え方は、お互いのために時間をつくること。いくら素晴らしいプロジェクトでも、海外公演が続くと妻と過ごす時間がなくなってしまう。プロジェクトを取るか、時間を取るか、選択を迫られることもありますが、私は妻との時間を選ぶようにしていますね」