ポイント2
定型句をノートに書きためて訓練を

2番目のポイントは、話すにあたって頭の中で英作文をしないことだという。その理由も極めて明快だ。

「必死で英作文をしている間、脳はフル回転しています。けれど私たちが日頃日本語を使うときに頭をフル回転しているわけではない。すぐに口をついて出る定型句を使いながら、それでも頭は半分くらいしか使わずに会話をしている。これは、アメリカ人も一緒です。そんな彼らと話をするとき、めいっぱいに頭を使って英語を思い浮かべようとしていたのでは、自分が言いたい大事なことを言うために必要な時間を失うことになります」

ここで、活用したいのが、英語の定型句なのだ。

「例えば何かを提案したいとき、普通用いられる定型句は、『I suggest~』や『I propose~』ですが、これらの言い方が、考えることなしに、ほぼ自動で口をついて出てこないといけない。もっと弱く押しつけがましくない言い方をしたい場合には、『It might be a good idea to~』となります。これも決まりきった言い方で、ネイティブの頭の中には、こうした定型句がたくさん詰まっています。むしろ日頃の会話は定型句だらけ。それを知っていれば、口をついて出た定型句を言っている間に伝えたい内容の準備ができます」

では、考えることなしに英語の定型句が口をついて出てくるようになるには何が必要か。

「訓練するしかないんです。定型句に遭遇したら小さなノートに書きとめる。どんな状況で、どんな気持ちを表すときに使うかまで書きとめて、反射的にその表現が出てくるようになるまで覚え込むしかありません。苦労はあります。ですが、十分な定型句を身につければ、英会話は格段に楽になってくるのです」

ポイント3
結論を先に述べて、理由を説明する英語の性質を知る

文法的には100%正しい文章を書き、話してもいるのに、やはりネイティブの人たちの英語とは異なる。そんな感覚を経験した人も少なくないだろう。実はここに、大西さんが指摘する第3のポイントがある。

「日本人が正しいと思う英語とネイティブが使う英語との差がわかれば、より高いレベルの英語を話せるようになる。その違いを習得するために必要な学習事項を、探し出してまとめているところです」

大西さんによれば、例えばアメリカ人が使う英語には、彼らなりの癖があるとのこと。その違いを知らないと効率的な、誤解のないコミュニケーションはできないという。

「クライアントから食事に誘われて、“すみません、行けません”という意味を伝えたいときに、『I'm sorry I can't.』だけではまったく不十分。その後に、なぜならと続けてはっきりと理由を言わなければ多くのアメリカ人は納得しないでしょう。日本人は詳しい理由を詮索しませんが、向こうでは詰めすぎと思えるほど理由を詰める。また、絵画を褒めるときに、色使いが好きだから、あなたの作品は素晴らしい、という順番ではいけないのです。まず、すばらしい仕事だと褒め、その後で理由を説明するべきです。

結論を先に述べ、後で理由や背景を説明する欧米人のこうした習慣について、そのほうが論理的だからだと説明をする方もいます。しかし、論理的には順番は関係ないし、結論と理由の順番が逆のほうが感銘を与えると考えるのがそもそも日本人です。だから、こうした差異については、英語の性質、あるいは欧米人の癖であると考えればいいでしょう」

大西さんの掲げる3つのポイントはいずれも、意識的に取り組む必要がある。結論から始め、後へ後へと説明を展開する言葉の性質を体得するには、テーマをはっきりさせた訓練が効果的なのだ。

(大竹 聡=インタビュー&文 吉江好樹=撮影)