セミナーの1週間後、相談を持ちかけられた武田課長は阿智村に足を運んだ。地元の関係者と阿智村の観光資源の洗い出しをしているとき「日本一の星空」に強く惹かれたという。

「日本一の星空ナイトツアー」の仕掛け人スタービレッジ阿智村協議会事務局長松下仁氏とJTB中部 交流文化部課長武田道仁氏。

「私はいつも一旅行者の立場で面白いと感じるかどうかを大切にしています。スキー場のスタッフが営業終了後にひそかに星空を楽しんでいると聞けば、誰だって『そんなにキレイな星空なら一度は観てみたい』と思うはず。夜間にゴンドラを動かしたいというアイデアが先方から出てきたときには、『これは行けるな』と思いました」

武田氏は月2回ほどのペースで阿智村に通ってアイデアや仕掛けを提案した。役場や観光協会、旅館組合などに声をかけて協力体制を広げて「村全体で『星の村』としてやっていきませんか」という提案も行った。誘客促進協議会を立ち上げ、村長が会長になったことで計画はスムーズに運んだ。

「JTBには地域を巻き込んでいくためのノウハウが蓄積されています。ただし、私たちの役割はあくまで黒子としてサポートに徹すること。地域を活性化し、阿智村を『星の村』としてブランディングするのが本来の目的ですから。むしろ他の旅行会社へのツアー説明会や商談会などにも協議会の一員として積極的に協力して、村の認知度を高めるチャンスを増やしたい」

「交流文化事業」は
日本経済再生の鍵になる

06年にJTBは、北海道から沖縄まで、地域会社に分社化した。「交流文化事業」という命題の下で、それぞれに新たな交流の創造・促進に取り組んでいる。先の阿智村の「日本一の星空ナイトツアー」はその成功事例の一つだ。

他にも修学旅行生に町工場のモノづくりの現場を体験してもらう「東大阪のモノづくり観光」、中高生による科学のアイデアコンテスト「つくばサイエンスエッジ」や学生の力を借りて地域の観光資源を掘り起こす「大学生観光まちづくりコンテスト」、自転車を通じて沖縄の魅力を発信する「美ら島オキナワCenturyRun」など、人々の交流を創造する新しい仕掛けが全国各地で展開されている。

(左)中高生によるコンテスト「つくばサイエンスエッジ」。 (右)自転車で魅力を発信「美ら島オキナワCenturyRun」。

アベノミクスの第三の矢「成長戦略(日本再興戦略)」のアクションプランでは、「世界を惹き付ける地域資源で稼ぐ地域社会の実現」を大きなテーマに掲げている。

地域資源の魅力を再発見し、磨きをかけて、日本全国、世界各国から人々を呼び込み交流を促す。JTBグループの「交流文化事業」は、観光立国の実現、そして日本経済の再生に向けたキーワードでもある。