独自開発のAIにより、リモート会議から対面商談まであらゆる会話を自動で記録・分析し、顧客の無意識な発言やハイパフォーマーの対話プロセスを可視化するインサイトアナリシス™「Front Agent」。開発したUmee Technologiesの新納弘崇代表と、同製品を導入し大きな成果を上げた三菱地所レジデンスのC・DX企画部 CXグループマネージャー 池田至氏にお話を伺い、AIが創るビジネスの未来を探る。

「Front Agent®」はUmee Technologies株式会社の登録商標です。

人の「暗黙知」を可視化する――Front Agentがもたらすブラックボックスの解消

――まず、Front Agentとはどのようなプロダクトなのでしょうか。

【新納】Front Agentは、対面、WEB会議、電話、あらゆる会話を分析し、「顧客に響いた会話」や「営業本人も気づいていない強み・弱点」を可視化する独自開発のAI(インサイトアナリシス™)です。スマートフォンで会話を録音するだけで、クラウド上で自動的に文字起こしと分析が行われます。新たな設備投資や面倒な入力作業やAIの学習期間などは必要なく、最短3日で導入可能です。

営業現場では、これまで担当者以外にはブラックボックスだった顧客との商談を分析することにより、「なぜ売れたのか」「なぜ売れなかったのか」という理由を明確にし、営業手法の改善や人材育成に結びつけることができます。

――どのようにして「可視化する」のですか。

新納弘崇(にいろ・ひろたか) Umee Technologies株式会社 CEO
新納弘崇(にいろ・ひろたか)
Umee Technologies株式会社 CEO

【新納】まず会話をテキスト化したうえでラベリングし、構造化データへ変換します。そのうえで、心理的に強調された会話、前後の文脈、話者のスタンス、会話の流れなどを多角的に分析し、話者の個性を“差異”として浮かび上がらせるのです。

【池田】例えば新築マンション販売の場合は成約データと組み合わせ、成約率の高い担当者をベンチマークとし、別の担当者との違いを分析していきます。“差異”が明確に表示されますので“成約につながる効果的なトーク”が明瞭に浮かび上がります。

当社の事例で申し上げますと、全国でファミリー向け物件から高額物件までさまざまな商品を扱っており、それぞれの物件において成約率の高い担当者は異なっていました。Front Agentでその差分を分析したところ、高額物件を買われるお客様の場合、価格の納得感をしっかり得たいというインサイトがあり、ブランド価値や現在の市況の説明がポイントになっていたのです。ファミリー向け物件のお客様は一次取得者が多く、家族構成の変化や転勤が懸念材料になっており、担当者が「私自身そういう体験がありました」などお客様に寄り添い、一つ一つ丁寧に疑問を解消し安心感を伝えたことが成約につながっているという一例が見えました。

【新納】商談の進め方に「唯一の正解」はありません。だからこそ、状況ごとに“何が効いたのか”を可視化できる点がFront Agentの強みです。また、分析結果はAI初心者でも直感的に理解できるようなUIになっています。さらに、分析のエビデンスになった会話は文字起こしされているので、“差異”となっている発言がどのような文脈で使用されているかテキストですぐに確認できる点も特長です。

現場で実感したFront Agent導入の効果

――営業支援のAIツールは他にも多数ある中で、三菱地所レジデンスではどういった経緯でFront Agentを導入したのですか。

【池田】マンションは高額な商品です。だからこそ、当社としてはお客様にとって最適な購入意思決定をサポートしたいと考えています。担当者の提案は、購入の意思決定に大きな影響を与えます。そのため「このプロセスを解析し、顧客体験の向上に反映できないか」という点は、常に課題として考えていました。

実はFront Agentを導入するまでに2社のサービスを試しました。1社目は文字起こしの精度が低く、実用化には至りませんでした。2社目は文字起こしこそ完璧でしたが、これは人手による作業だったため、改善の示唆が出てくるまでに1カ月を要し、その頃には販売フェーズが次の段階に進んでしまっていました。結果として、PDCAを回すうえで必要なスピードに追いつけず、活用が難しい状況でした。その点、Front Agentは文字起こしの精度、分析の深さ、処理速度すべてが高水準で、当社の業務スピードに適合すると判断し、導入を決めたのです。

――導入による効果はいかがでしたか。

池田至(いけだ・いたる) 三菱地所レジデンス株式会社 C・DX企画部 CXグループマネージャー
池田至(いけだ・いたる)
三菱地所レジデンス株式会社 C・DX企画部 CXグループマネージャー

【池田】一番の成果は“成約率の高い担当者のナレッジの共有”ですね。成約率の高い担当者であっても、自分のトークの強みには無自覚なケースが多いです。Front Agentは成約率の高い担当者とそうでない担当者との違いをデータに基づいて可視化してくれるので、顧客体験の質を高めるPDCAが高速化され、結果として成約率の底上げにもつながっています。

さらに、Front Agentは部下を指導する立場にある上司にとっても非常に有用なツールです。すべての担当者の状況を把握し、根拠をもって差分を理解したうえで具体的な改善ポイントを示し、「この部分の提案の仕方を改善して」と的確に指導できるようになりました。結果として、指導の質とスピードが向上し、組織全体の営業力強化につながっています。

独自AIだからこそできる「安定した深い分析」

――音声認識AIは数多く開発されています。Front Agentは世の中一般の文字起こしや要約・商談分析AIツールとどこが違うのでしょうか。

【新納】多くのサービスは外部の生成AIを利用しており、指示ごとに結果が変わったり、ハルシネーションが起きたりします。一方、Front Agentでは文字起こしから分析まで独自開発のAI「ディープインサイトエンジン™」で行うため、ブレがなく、誰が行っても同じ分析かつ、ハルシネーションがありません。AIの回答が毎回違えば判断もブレてしまうので、経営戦略を立てるためにも、決まった分析結果が出ることは必須だと考えています。

もうひとつの特長は、膨大な会話データの中から「本当に知りたいこと」をピンポイントで抽出できることです。分析や比較の対象を変えることも簡単で、「担当者の商談の進め方」ではなく「顧客にどんなニーズがあるか」を知りたい場合は、条件を変えるだけで分析できます。

――Front Agentはどういった業種に向いているでしょうか。

【新納】Front Agentの力はコミュニケーションにおける人のインサイトの可視化であり、“人が会話する場”ならどこでも導入できます。営業支援はもちろん、顧客満足度向上、人材育成、課題特定など、定量データと掛け合わせることで「目標に近づくために何をすればいいのか」が見えてきます。

例えば全国に店舗がある企業の対面販売で使う場合、「1都3県とそれ以外のエリアを解析したい」「小規模店と大規模店を比較したい」といったことも可能です。

コールセンターなどでは顧客との会話の分析により、今問題となっているカスタマーハラスメントも減らせるでしょうし、「従業員の離職率を下げたい」という人事案件なら、上司との1on1ミーティングを分析することで、何が離職のポイントになっているかが見えてくるでしょう。顧客の声を捉えたものづくり、商品開発にも活かすことができます。

【池田】当社の場合は、土地を仕入れる際の交渉の改善にも有効と思いますし、不動産は売って終わりではなく、管理業務から売却のサポートまで、さまざまなアフターサービスが存在しますので、そこに一気通貫でFront Agentを導入することで、顧客のニーズを理解してより良い体験をお届けできるのではと考えています。

――全体の営業力が底上げされるのは素晴らしいことですが、10年後、もし多くの企業がFront Agentを導入した場合、営業力による差別化は難しくなるのでしょうか。

【池田】企業にはそれぞれ固有の強みがありますから、一様になることはないと考えています。例えば当社でいえば、「ザ・パークハウス」というブランドに基づいた商品の品質にはゆるぎない自信がありますし、その特徴をお伝えするトークには他社と比較して確かな優位性があります。この競争力が今後弱まることはないだろうと思っています。

【新納】私も同じ考えです。どの企業の商品にも、購入の決め手となる“個性”は必ずあるはずです。ターゲットとする層や事業の立ち位置によって戦略は変わりますが、Front Agentを活用することで「なぜ売れるのか」がより明確になります。結果として各社の個性の違いがより際立ち、強みもさらに特化していくはずです。Front Agentはあくまで“ツール”であり、企業が抱える課題を解決するための手段として使っていただきたいと考えています。