自治体の誠意や迅速性なども
企業からの評価の対象に

では、企業はどういった理由で具体的な立地地点を選んでいるのか。複数回答で「最も重視した」「重視した」とされた項目の上位10位までを示す。

(1)本社・他の自社工場への近接性、(2)地価、(3)周辺環境からの制約が少ない、(4)地方自治体の誠意・積極性・迅速性、(5)市場への近接性、(6)関連企業への近接性、(7)国・地方自治体の助成、(8)工業団地である、(9)人材・労働力の確保、(10)原材料等の入手の便。

かつて自治体が助成金を武器に誘致合戦を繰り広げているとも伝えられた。しかし企業の視点は総合的で、経営環境が刻々と変化するなか、その傾向はいっそう強まっていると考えていいだろう。例えば自治体の努力項目であれば、企業が評価眼を向けるのは「誠意・積極性・迅速性」で、第4位につけている。

地域経済に関する研究者らの声を聞くと、「特に今日、自治体は企業の誘致活動ばかりでなく、企業リテンションにも傾注すべき」とされる。例えば、工業団地に立地した工場を拡張したいという企業の要望に対し、もし団地の敷地が完売だったら自治体はどうするか。柔軟な工夫で応えなければ、他地域へ移られてしまう結果となるだろう。逆に企業側としては、中長期的なアフターケアまで見極めて立地先を選ぶことが望ましい。

このほか、いまやBCP(事業継続計画)は工場にとっても重要課題だが、操業に不可欠な電力・ガス・水道・道路などの維持・復旧は、自治体が主導すべき領域である。

海外よりも国内を選ぶ企業
その理由はどこに──

「工場立地動向調査」では、海外立地も検討した41社が、最終的に国内を選んだ理由も挙げている(図参照)。特に(1)「良質な労働力」、(3)「関連企業への近接性」、(4)「原材料等の入手の便」は、日本ならではの利点である。国際的に評価が高い日本人の勤勉さや学習意欲、向上心がものづくりにふさわしいことは、あらためて強調するまでもないだろう。また、東日本大震災ではサプライチェーンの混乱によって、図らずも日本における産業集積の厚みがクローズアップされた。

海外生産を推進していたグローバルな建機メーカーが、再び日本ベースへと方向転換した例もある。その経営者は「素材から個々の部品まで、日本ほどあらゆる良質なものがそろう国は世界中にない」と語った。

一方、(8)「政情・治安の安定」や(9)「知的財産権の保護への配慮」は、新興国ならではのリスクの裏返しである。加えて、例えばタイでの洪水被害は記憶に新しく、災害に備えたBCPは海外立地においても重視すべきポイントだ。また、知財保護に限らず、国によってはさまざまな法制度が未整備のため、操業開始後に思わぬトラブルが起こるリスクも考えておかねばならない。

むろん企業が収益を追求する以上、リスクをとってリターンを増やすというアプローチは工場立地にもあてはまる。しかも新興国市場への近接性を重視して、海外での生産を優先する企業は依然、少なくないだろう。

しかしながら、日本政府は3本目の矢である成長戦略の一環として、国内外企業の誘致拡大にも力を注ぐ。また2012年終盤からの円高修正で、海外立地への圧力の一部は低下している。これを受けた自動車メーカーなどの大手や、プレス加工などの中小メーカーが、国内生産の増加へシフトしたことも報じられた。

日本で生産することのデメリットが縮小するにしたがい、国内立地によって本来もたらされるはずのメリットは一段と際立ってくる。今後、製造業の空洞化が抑制されることに期待したい。