あえて離島に学校をつくったワケ

そうした思いから、湯﨑知事は、2014年に「広島版『学びの変革』アクション・プラン」を策定。変革の先導的かつ実践の場としての叡智学園について、県の教育委員会と議論をしながら詳細を定めていった。

そこで重視されたのが、知識偏重の「詰め込み教育」からの脱却だ。大きなコンセプトは、生徒の性格や感性を生かして能力を伸ばす「全人教育」だ。全寮制については当初から想定していた一方で、英語教育は必ずしも絶対ではなかったという。しかし、グローバルに活躍できる人材という観点が考慮され、英語教育、さらにIB導入を定めていった。

寮はメゾネットタイプ。部屋は個室と2人部屋に分かれており、10名ずつのユニットで生活する。
撮影=プレジデントオンライン編集部
寮はメゾネットタイプ。部屋は個室と2人部屋に分かれており、10名ずつのユニットで生活する。

ロケーションを広島市内など都市部ではなく、大崎上島に定めたのにも理由がある。

「深い学びには主体的な対話、コミュニケーションが大切です。ですが、都会にそうした対話ができるコミュニティがあるとは言えない。だから、学校を田舎に作る、というのは最初から考えていました。

その点、大崎上島は造船やみかん産業などで適度に栄え、地域のコミュニティがしっかりしている。島外の人に対しても大らかで、地域との積極的な連携が見込める。人間性を育む重要な要素である豊かな自然もあります。そうした点が、決め手となりました」

衝撃的だった海外の学生の能力

冒頭で引いた発言の通り、叡智学園は「高い偏差値」、世間一般的に「良い」とされる学校を目指す教育とは一線を画している。ここには、東大法学部を卒業して通産官僚という、いわば超エリート街道を歩んできた湯﨑氏自身の経験も大いに生かされているという。

「高校のときに米国へ留学をした経験が大きいかもしれません。向こうの学生は、勉強ができる、できないというよりも、とにかく『吸収する力』があるんです。

一緒に授業を受けていて、最初は『全然分からない』と途方に暮れていても、こっちが何か教えてあげると、コツをつかんで一気に成績が伸びていく。専門外のことでも、あっという間に身に付けてしまう。

後にスタンフォード大のビジネススクールに留学した際も思い知らされました。彼らは出身大学に関係なく自分の得意分野に関しては臆せず意見を発し、いかんなく能力を発揮していく。

こうした力は、単に知識を詰め込むだけの教育方法では伸ばせないなと感じたのをよく覚えています。知識ではなく、いわば人間力を鍛える必要があるんだな、と」