なぜ簡単な「偶数はどれか問題」を大人の3人に2人が間違えるのか

偶数・奇数の定義は、すべての小学5年生の教科書に、ほぼこのとおりに書かれています。この問題の正答率は、6年生が一番高く60%です。たぶん、小学校で「0は偶数だからね」と繰り返し先生に言われるからでしょう。つまり、6年生は学校で学んだ知識で「0」を選んでいるのです。

しかし、中学生の正答率は学年が上がるごとに下がり、中学3年生では28%です。教え込まれただけの知識は剥落しやすいことがわかります。誤答を選んだ生徒の約9割が「8」、「110」だけを選んでいます。高校3年間を通じて正答率は改善せず、ホワイトカラーの大人でも3人に2人は間違えます。

「0」を選ばなかった生徒に理由を聞くと、「たとえば、クッキーが0枚だったら、2人で分けられないように、何もなければ分けようがないから」とか、「0は特別な数で、奇数でも偶数でもない」と言います。

定義をもう1度読んでごらん、と言ってもなかなか意見を変えません。興味深いのは、「なぜ、110は偶数だとわかったの?」と聞くと、「1の位が偶数の数は偶数だから」と言うところです。

新井紀子『シン読解力 学力と人生を決めるもうひとつの読み方』(東洋経済新報社)
新井紀子『シン読解力 学力と人生を決めるもうひとつの読み方』(東洋経済新報社)

「だったら、0は偶数じゃないの?」と言うと困った顔をします。この現象は、小学5年生から大人まで同じ土俵で大規模調査ができるRSTが登場して、初めてその実態が明らかになった、数学に関する「誤概念」だと言えるでしょう。2024年に数学教育最大の国際会議であるICME(数学教育世界会議)でこの発見を発表しました。

数学の学力テストの結果と、数学の定義を読み解く力には強い相関があります。計算が不得意なわけではないのに数学が苦手、という人は、数学の定義の読み方でつまずいていた可能性が高いでしょう。

定義は、数学や理科の教科書だけでなく、辞書や社会科の教科書にも登場します。

RSTでは、定義を読み解く力を「具体例同定(理数)」、「具体例同定(辞書)」の2つに分けて能力を測っています。

次の問題は、高校の社会科の教科書が出典で、中学生以上に出題しています。問題をご覧ください。