ファンタジーに逃げる“下流”の人々
【土井英司】まずは「この1年間に読んで役に立った本」から見ていきたいと思います。
1500万の人を見ると『デフレの正体』『日本中枢の崩壊』などを読んでいて、社会、経済の全体像を捉えようとする姿勢がよく出ています。かなり、マクロな視野を持っていますね。さらに『ローマ人の物語』『三国志』などの歴史物も入っていて、国家規模の話に興味があることがわかります。
一方の500万の人は「日経トレンディ」や「あるじゃん」などを読んでいて、1消費者の視点が強いですね。
【成毛眞】僕は、1500万の人は刺激のない本を読んでると思うな。『三国志』なんてモロにおじさんの読み物だし、『7つの習慣』なんて日本では1996年に出版された本だからね。10年以上前の本を挙げてくるセンスって、よくわからない。
僕がいいと思うのは、むしろ800万の人。『もしドラ』を読んで触発されて、ドラッカー本人の著作を読んでいる。いかにも大企業でがんばってる企業戦士の読書という気がするね。『坂の上の雲』もマイケル・サンデルもテレビの影響でしょう。こういう刺激の受け方って、悪くない。本はミーハーな読み方をしたほうがいいというのが僕の持論です。ビジネスチャンスになる旬な情報を捕まえるのは、常にミーハー精神だからね。
【土井】500万の人は明らかにファンタジー、エンタメ中心です。『ONE PIECE』なんて漫画は思い切りファンタジーです。
【成毛】そもそも知的な人間は漫画なんて読まないよ。海外企業のマネジメントなんて、漫画本の表紙すら見たことないだろうねぇ。
【土井】『海賊の経済学』(ピーター・T・リーソン)という大変面白い本がありますが、この本によると海賊の社会は極めて平等な社会です。そうした社会に憧れるのは、ある意味、厭世的な姿勢だといえます。1500万の人が『ウォール街のランダム・ウォーカー』を読んで、ものごとは確率で決まるという冷徹な現状認識を仕入れているのとは大変な違いです。
上流は世の中を動かす法則や権力者の意図、そして政治に強い関心がありますね。苦境の時代こそ、現実を見据え、現実を変えていこうとしている。一方で、500万の人はファンタジーに逃げているように見えます。