江戸時代、そば屋はお寺の代表的な副業だった。今もそば屋に○○庵という名が多いのはその名残だ。当時は坊主が店頭でそばを打ち、お客の気を引いたという。そういえば、深大寺そばという名物もある。

前述の通り観光業は無税だが、歴史情緒を醸し出すお寺は、国や地方自治体にとって重要な観光資源だ。様々な旅行案内書(パンフレット)には、お寺サイドの思惑とは無関係に、観光名所としての由来や見所スポットが紹介されている。行政サイドも、そうしたお寺の観光利用を推進してゆく意向だ。

なかには商業主義や静寂の喪失を嫌ってか、お寺の観光を拒否する坊主もいるが、商売っ気のある向きは、拝観料を取って境内や建物内に売店を構え、土産物を販売するなど積極的だ。

近年、各地の観光地では、坊主たちはお勤めよりもヒット企画の捻出に余念がない。典型例として、某県のX寺の「写経作戦」を紹介しよう。

まず、お寺へ拝観しに来た観光客に「般若心経の写経を体験してみませんか?」などと呼びかけて希望者を募り、半紙と筆を渡して写経を楽しんでもらうというものだ。参加者の所属宗派は一切不問であり、おのおの書き終えると、寺側が受け取って仏様に納めるシステムになっている。

このヒット企画の大きなミソは、奉納金にある。仏様にお経を納めるには、なぜか1人につき1000円かかる。多分、「1000円のお布施で功徳を積み、満願成就して差し上げましょう」ということらしいのだ。

拝観者にしてみれば、たったの1000円でご利益があるならば、ものは試しでやってみようという気になるものだ。常に40~50人くらいの行列で、拝観者は慣れない手つきで筆を走らせている。坊主はただそれを傍観するだけである。放ったらかしていても、1時間で数万円が転がり込んでくる。

収益以外にも拝観者を集客する宣伝効果がある。マスコミ各社が飛びついて知名度さえ出れば、人気商品になり、定着することは間違いない。

「写経」とお寺のマッチングは絶妙だ。お金を取っても批判する者はいないだろう。拝観客にとっても、お寺を訪れた情緒を満喫するにはもってこいだ。かくして、噂が噂を呼んで拝観客が雪崩れ込み、この企画は大成功。拝観料プラス奉納金で、お寺は念願であった西塔や金塔などを建立したのだ。

現在、日本各地のお寺で類似企画が盛んに行われている。これはまさに「ご利益ビジネス」で稼ぎまくる寺院、いや坊主の副業といえまいか。