うつ病患者では飲む量が少なかった緑茶やコーヒー

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精神栄養学の先行研究事例

では、先行研究ではどんなことがわかっているのだろうか。功刀部長の話をかいつまんでみよう。

まず、有名なところでは、「地中海式食事」は「西洋(欧)式食事」に比べて、うつ病やアルツハイマー病になりにくい、という調査結果である。

前者の食事の特徴は、果物・野菜・豆類・穀類・魚を多く、肉や乳製品は少なく、オリーブ油のオレイン酸は多く、赤ワインは1日にグラス1杯程度を摂取している、ということ。対して後者では、加工肉、ピザやハンバーガーなどのファストフード、精製した小麦粉で作る白パン、砂糖、味つけ加工乳飲料、ビールなどの食品摂取が多い。

欧米諸国の12の研究報告を統合したメタ解析の結果も出ている。それによると、「地中海式食事」に準じた食生活を送っている者は、うつ病だけではなく、心臓病やがんのリスクも低いことが明らかにされている。

また、「地中海式食事」で摂取が多い魚の油には、n-3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が含まれており、これらが精神疾患の予防や治療に有効であるという研究報告も増えている。すでに米国精神医学会では、週に少なくとも2回は魚を食べることや、気分障害などの患者にEPA+DHAの摂取を推奨している。

さらに、ビタミンでは、ビタミンB12や葉酸の血中濃度とうつ症状が逆相関するという報告がある。特に葉酸の補充療法は、うつ病治療に効果的であるという報告が少なくない。ミネラルでは、鉄欠乏と亜鉛欠乏がうつ症状に関連しているとのことである。

ほかにもさまざまな報告があがってきている最中だが、以上は現段階でその関連性や効果について、おおよそのコンセンサスがとれている内容だ。ならば、メンタルヘルスが気になる人は、ひとまず地中海式食事(イタリアンのイメージか)を心がけ、脂がのった青魚をいっぱい食べ、ビタミンB12の多い貝類、葉酸の多い緑黄色野菜、鉄も亜鉛も豊富なレバーの摂取などに励めばいいのだろうか。

「いや、そう単純な話ではないんです」と功刀部長はくぎを刺す。

「たとえば、地中海式食事はあくまで西洋式食事と比べて健康にいい、ということです。日本人は欧米人のように乳製品を多くとらないので、実はヨーグルトをもうちょっと食べたほうがいいと思います。腸内細菌が心の健康に大きく関与することも最近わかってきましたからね。魚に関しては、世界でもずば抜けて消費量が多いので、もう十分にEPAやDHAを摂取している人が大半かもしれません」

つまり、海外のデータや知見をそのまま日本人の食事療法として取り入れるのは乱暴にすぎる、ということだ。いくら食の欧米化が進んだといっても、欧米と日本では食生活がかなり違うのだから当然である。

日本人には日本人ならではの食生活と精神疾患の関連があるはず。その研究はまだ始まったばかりなので、今後の成果に乞うご期待としておこう。