電動歯ブラシは会社で使わない?

2010年4月、春まだ浅い日のことだった。家電メーカーのパナソニックに入社してまだ3年目の石橋絵里は、どこか落ち着かずにソワソワしていた。マーケティング本部ビューティ・ヘルスケア商品チームに所属する石橋にとって、この日は初めて主体的にマーケティングを担当した携帯用電動歯ブラシ「ポケットドルツ」が新発売となり、家電量販店やドラッグストアなどに商品が並ぶ記念すべき日だったのだ。

石橋はその日のことを思い出すと、ぱっと頬を紅潮させて満面の笑顔を見せた。

携帯用電動歯ブラシ「ポケットドルツ」開発プロジェクトチームを率いた3人。左からマーケティング担当・石橋絵里、チームのまとめ役の同・久保清英、製品開発側の窓口となった辰野博一。

「売り場で親子連れが『どっちの色にしようか?』なんて会話している姿を見てジーンとしちゃいました。大勢の人の努力が結集して、発売に漕ぎ着けられたことを実感した瞬間でした」

新卒で入社した石橋にとって、ランチタイムは楽しみのひとつ。でも周囲の女子社員たちが、ランチ後の歯磨きのときに電動歯ブラシを使わず、手磨きしていることに素朴な疑問を抱いた。

「あれ? うちの会社、電動歯ブラシも作っているのに、みんな、どうして使わないんやろ?」

石橋のこの素朴な疑問がポケットドルツの開発につながる最初の1歩となった。

石橋は隣の席に座る上司の久保清英に早速相談。ピンときた久保らとともに本格的なマーケティング調査に入ることになった。このとき、のちに開発の主要メンバーとなるパナソニック電工商品企画グループの辰野博一も「電動歯ブラシをスリム化して、女性をターゲットにできないものか」と考えていたというから、以心伝心とでも言うべきだろうか。彼らはその後、「ポケットドルツ開発プロジェクトチーム」の主要メンバーとして、見事な連携プレーを見せることになる。

久保をまとめ役に、石橋を中心としたマーケティング担当10人、辰野を中心とした製造・開発担当10人のチームが結成されたのは09年春のことだ。