そうしたやりとりの中で「ターゲット(の年齢と同世代)の石橋がここまで言っているので、もう1回やってみましょう」ということになり、だんだんと全体の士気が上がっていったという。

石橋は新人で経験不足は否めないものの、限りなく消費者目線に近いという強みがある。そして、それを認めた周囲のベテランたちが石橋をサポートし、温かく包み込むというポジティブな雰囲気でプロジェクトが進んでいった。

結局、10年8月にピンク、オレンジなどの5色を決定してから11年2月に量産体制に入るまで、4カ月間にわたり、色みはもちろん、ツヤ感やてかり、発色に至るまで、綿密な打ち合わせが続いた。

ポケットドルツは、ほかのプロジェクトに比べて、商品のサンプルなど、現物を前に打ち合わせをする頻度が特に高かったという。このやりとりを横で見ていた久保は「やはりメーカーですから、現物を持って確認し合うということが一番大事だと改めて感じました」と語る。

一方、同時進行で進められていたのが歯ブラシ本体の小型化だった。「女性のポーチに入るように」というコンセプトだったので、従来の電動歯ブラシと同じ25センチでは長すぎる。石橋たちはマスカラサイズの16センチを提案したが、開発担当からは当初「とても無理」との反対意見が出た。

そこまで小さくするには従来とは異なる小型のモータを使うしかないが、それではスペックダウンになってしまう。新商品では常に高い性能を追求するのが当たり前の技術者にとっては、受け入れがたい相談だった。「なぜ、わざわざ性能を落とさなければならないのか」と。

だが、従来のモータを使用すればサイズを小さくできないだけでなく、モータ音が大きいので、職場のトイレで女子社員たちに使ってもらえない。チームは開発担当に向かって、技術論うんぬんよりもまず先に「発想の転換」を呼びかけた。

「目指しているのは機能を追求した電動歯ブラシではなく、『OLのランチ磨き』というコンセプトにいかにマッチした商品を作るかだ」(久保)。このコンセプトの軸がぶれれば、担当者同士の意見がまとまらなくなるだけでなく、他部署、会社全体、ひいては得意先への情報伝達という意味でもブレが生じてしまい、商品が台なしになる。逆にコンセプトさえぶれなければ、その中で自由な発想を出し合える。