1992年、日本で最初の本を出した私は、95年に本の町というイメージの強い神保町に小さな事務所を構えた。週に何回も周辺の書店を回り、どんな本が出版され、読者がどんなテーマに関心をもっているのかを皮膚感覚として培おうと努めていた。実際、買いたい本はたくさんあり、事務所はあっという間に本の山に占領された。

しかし、昨年は一度も神保町の書店を回らなかったのだ。事務所を構えてから15年、こんなことははじめてだった。

昨年、書籍関連の仕事としてもっとも時間と労力をつぎ込んだのは紙の本ではなく、電子書籍の出版だった。展示会には積極的に足を運び、電子出版を手掛ける会社の会議にはできるだけ顔を出す。すでに出版された電子書籍のタイトルもチェックし、何を先に電子出版に回すかを考えたりしていた。

本にする情報収集もインターネットで難なく済ませられる。ここまできて、もはや神保町に事務所を構える必然性がなくなった。新年早々、周囲の人々の反対を押し切り、事務所を神保町からスカイツリーが立つ墨田区へと移した。

そんな状況下、今年最初の書評も躊躇せず、西田宗千佳氏の新著『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』を選んだ。

同じ出版社から出された前著の『iPad vsキンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』の帯には、「電子書籍上陸前」という黒船襲来を思わせる表現が躍っていたが、今度は「電子書籍上陸後」の、列島を横断し始めた台風を感じさせた。

本書は、iPadで迎えた「電子書籍元年」の2010年から、本格的な端末の登場を経て2年目に入った市場の現況を、日本製の「日の丸」端末から、ビジネスモデルまで追っていく。

電子書籍の出版において、出版社不要論は暴論だと思うが、有能な編集者と力のある作者とのコンビで十分勝負できる時代がやってきたと思う。すでに一部の作家は出版社を経由せずに電子書籍を出すという事態が起きている。著者も「(有能な)人物がプロデューサー的に立ちまわれば、大きな組織がなくても電子書籍は売れる」と認める。

電子出版時代はその時代に適応できるプロの出版集団を求める。そして在来の業界を淘汰する。ある数十年続いた出版社の年配の社長は電子出版の「で」の字も聞きたくないと言った。ふと、自然選択による進化の理論を提案したダーウィンの顔が脳裏に思い浮かんだ。

しかし、本書の隠れた執筆意図は在来の出版社を淘汰すべく電子書籍を論じているのではない。むしろ低迷する出版業界に、「電子書籍は黒船なんかじゃなくて、『鉄砲伝来』だ」と一つのチャンスとしての最新情報を周知させようとしているのだ。その意図は果たして保守風土の出版業界に伝わるのか、今後、目を凝らしてみてみたい。