パナソニックは今期、7650億円の赤字となる見通しだ。前期と合わせて2年で1兆5000億円超が吹き飛んだ計算になる。一方、サムスン電子の前期純利益は約9000億円。今期の最高益更新も堅い。(※雑誌掲載当時)なぜ、この差がついたのか。両国企業の「人材力」を徹底検証する。

「韓国企業の現在の成功は、新興国での『現地化』にあります」

富士通総研主席研究員の金堅敏氏は単純明快に言い放った。韓国企業は近年、ブラジル、ロシア、インド、中国の「BRICs」をはじめ、東南アジア、中南米などの新興国での存在感を急速に高めている。その理由は、韓国人が直接、現地に行って市場構造やニーズをリサーチし、製品の開発や設計に結びつけているからだという。

「日本企業の海外戦略は『パンフレットセールス方式』が中心。つまり、日本人社員が自社製品のパンフレットをそのまま取引先に見せて売り込むだけ。しかし、韓国企業の場合、韓国人の社員が現地に同化して、入り込んでいきます」

同様の言葉は、日系メーカーの社員からも聞いた。

「彼らはえげつないほどに積極的。東南アジアなどの有望なサプライヤーの工場には、韓国系メーカーの社員が勝手に常駐してしまうという話も。『アグレッシブすぎて嫌だ』と現地企業の社員からボヤかれたこともあります」

韓国企業の「現地化」への取り組みとして知られる代表例が、サムスンの「地域専門家制度」だ。入社3年目以上の課長代理クラスの社員を世界各国へ1年間派遣し、その国のプロをつくる人材育成プログラムである。

90年の制度開始以来、これまで派遣した社員の数は約4000人。派遣国はBRICsを筆頭に東ヨーロッパやアフリカなど、世界中に広がる。派遣された地域専門家には赴任の間、仕事の義務が一切ない。もちろんその間、給料は支給される。だが、会社からのサポートはない。彼らはまずその国の文化を体感し、生活するための語学力を磨き、そのうえで人脈を広げていく。文字通り、現地に溶け込むのだ。

サムスン電子元常務の吉川氏によると、彼らは派遣前にサムスンの人材育成の拠点である「人力開発院」で3カ月間、集中的に教育を受ける。そこでは派遣先のネイティブが講師となり、語学のほか文化も教授するという。