では、日本人に向いた移住先はどこか。

「ヨーロッパは11カ国がリタイアメント制度を実施していますが、いずれも金額条件が高く物価も安くないので、普通の日本人には厳しいでしょう。オーストラリアやニュージーランドも同様です。中南米は物価こそ安いですが、距離的にも文化的にも身近な国ではありません。お勧めは必然的にアジア諸国です。アジアでリタイアメント制度を実施しているのはフィリピン、タイ、マレーシア、インドネシア、台湾の5カ国・地域。このうち最近人気のマレーシアはビザの取得にかかる費用が高く、富裕層向けです」(安田氏)

各国の移住者事情に詳しい人たちの話も紹介しておこう。

まずはフィリピンから。

「50歳以上で1万ドルの銀行預金を積むと永住権が取れます。セキュリティのしっかりした高層マンションに住めば、治安の不安もありません」(フィリピン居住の斡旋をしているテクニカルブレイン代表取締役・根本憲夫氏)

フィリピンは電気代が高いが、電力の無駄づかいをしなければ、生活費は日本ほどかからない。また人件費が安いので、介護のために人を雇っても、1日8時間働いてもらって月3万円ですむという点は魅力だ。

人気のタイはどうだろうか。

「リタイアメントビザの取得が300万円以下ででき、生活費も日本の3分の1から5分の1ですみます」(海外移住のサポートをする経産省の外郭団体、ロングステイ財団・佐藤裕氏)

タイ料理も日本人の口に合うものが多く、首都バンコクには日本料理店も多く、不自由はない。なにより仏教国なので暮らしやすいと日本人の評判は高い。

最後は、やや富裕層向けのマレーシアである。

「物価は日本の3分の1。首都クアラルンプールは家賃4万~7万円でプール付きの家に住めます。政治は安定していて、治安も悪くありません。熱帯地方といえども、年間の平均気温は26度で、日本の夏より過ごしやすい。一番安心なのは、病気になっても日本の国民健康保険が使え、医療現場の技術も高いところです」(夫と2人でマレーシアに移住したセカンドホームクラブ キャプテン阪本洋子氏)

医療に関して、フィリピンやタイでは国民健康保険やクレジットカードの保険が使える。また、移住後に亡くなった場合は、現地で葬儀をした後、遺骨は日本の墓に納めるケースが多いという。せめて最低限、日本の墓の費用を親族に残しておくのが、遺骨になる前の礼儀だろう。

表を拡大
出典:「ロングステイ調査統計」を基に編集部作成(1ドル=80円、1バーツ=2.5円、1リンギット=24.5円、1豪ドル=77円で計算)
※それぞれの国によってビザ取得の方法は異なるため、各国大使館に詳細は要確認のこと。

夢を抱いて海外生活を始めたのに、わずか数カ月で逃げるように日本に戻ってくる人も決して少なくない現実もある。そして、そういう人には次のような特徴があると、安田氏は言う。

「日本の生活が頭から離れず、すぐに日本と比べたがる、こういう人は現地の生活を楽しめないので長続きしません。また、日本での金銭感覚が抜けきれず、現地で常識外れのお金の使い方をする人は、カモにされて財産を失う危険が高いです」

海外で住むならお金も日本円に換算せず、現地通貨で価値を判断できるようにならないとダメなのである。

さらに、海外では日本人の結びつきが日本以上に強くなりがちで「日本人コミュニティ」でうまくやっていけないと、逆にストレスになる人も多いと警告する。

「すぐに人に頼るのも海外では致命的です。よくあるのが、相手が日本人だからと安心し、その結果騙されるケース。重要な意思決定はあくまで自己責任で行い、納得できないことにははっきりノーと言えないと、海外ではやっていけないと思ったほうがいいでしょう」(安田氏)

新しい生活を1から始める覚悟があり、自立した人間として振る舞える。こういう人でないと、いくらお金があっても、海外での生活はおぼつかない。

※すべて雑誌掲載当時

(PIXTA=写真)
【関連記事】
再注目「田舎暮らし、海外移住」の損得
移住ツアー:百聞は一見にしかず。1泊2日の「田舎暮らし」取材
蝶の楽園石垣島で夫婦そろって心から楽しむセカンドライフ
外こもり -「何もしない」ために海外へ
「田舎で都会生活」を叶えた元ベンチャー社長