2012年12月23日(日)

フィリピン、タイ、マレーシア……憧れの「海外移住」の光と影

PRESIDENT 2012年1月16日号

著者
山口 雅之 やまぐち・まさゆき
フリーライター

ビジネス誌、経済誌を中心に活動。単行本の執筆、映像台本も手掛ける。テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞優秀賞。著書に『一流の人の考え方』(日本実業出版社)、『塀の中から見た人生』(カナリア書房)。

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山口雅之=文 PIXTA=写真
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老後は日本よりも生活費の安い海外で、悠々自適の日々を送りたいという人が増えている。幸せな生活を送るために必要な条件とは何だろうか。
(PIXTA=写真)

海外に行けば本当に、少ない費用で豊かな生活が送れるのだろうか。海外移住に詳しく『日本を脱出する本』(ダイヤモンド社)など移住に関する著作も多いライターの安田修氏は、過熱するブームに警鐘を鳴らす。

「たしかにネパールなら月3万円で十分です。一方で、日本人が憧れるハワイやオーストラリアの物価は、安くありません。タイやフィリピンも、現地の人は月5万円以下で暮らしていますが、日本人はそういう生活に耐えられないでしょう。特にフィリピンはセキュリティの問題で満足できるレベルの暮らしなら、月に12万~13万円はかかりますよ」

12万~13万円は、タイやフィリピンの管理職の月給に相当する額。日本人が生活費を考えるときは、このあたりを目安にすれば間違いなさそうだ。日本の公的年金を満額受給できる夫婦(夫が厚生年金加入で月23万円程度を想定)なら、多少余裕をもって月18万円かかるとしてもお釣りがくる計算に。

実際、タイなどに移住して、年金だけで比較的優雅な老後を送っている日本人も少なくない。ただ、手元に残るのは年間で60万円だから、アジアなら年金はほとんど貯蓄に回せるといった幻想はもたないことだ。

一方、国民年金の夫婦だと受給額は満額でも13万円程度なので、これらの国で暮らすのはギリギリ。預金金利が7~8%付いた時代は、ある程度の資産があれば、金利分で生活ができたが、現在の低金利時代だと望み薄だ。ちなみに月12万~13万円の生活費は、日本での田舎暮らしとそう変わらない。

ここ数年、アジアの物価水準は上昇し、日本円の価値の目減りも将来ないとはいい切れない。安易な考えでの海外移住では、「ペイしない」と考えるべきだ。

そもそも老後に、海外移住や長期滞在をする場合は、通常「リタイアメント査証(ビザ)」の入手が必要で、そのためには現地預金や資産証明が求められる。

「マレーシアなら35万リンギット(約860万円)以上の財産証明と月額1万リンギット(約25万円)以上の収入証明。比較的安いタイでも80万バーツ(約200万円)の現地預金が必要」(安田氏)

人気の高いオーストラリアは2005年に法律が変わり、現在は最低でも約4000万円の資産がなければリタイアメントビザが取れないので、富裕層でないと移住は難しい。

さらに、リタイアメントビザ取得以外にも初期費用として必要なのは、現地の事前の調査費(渡航費、滞在費など)だ。

「インターネットなどを利用すれば、日本にいても情報は取れますが、そこでの暮らしが合うかどうかは、実際に現地に足を運ばないとわかりません。希望の場所が見つかったら、最低1カ月は住んでみる必要があります」(安田氏)

1カ月暮らせば、そこで長く生活できるかどうか判断がつく。同じ国のなかでも、地域によって住みやすさや、自分に合うかどうかは違うので、現地に実際に行かないと意味がないのだ。

日本人だとどこの国でも、ビザ免除か簡単に取れる観光ビザでだいたい90日までは滞在できる。一度入国したら1カ月ごとに移動して、3つぐらいの街の生活を体験するのがお勧めだ。

海外経験の長いキャスターでジャーナリストの蟹瀬誠一氏も、移住の前にトライアルとして3カ月程度の滞在を推奨している。

「現地で暮らすと、言葉や食事だけでなく、税金や子どもの教育といった問題が出てきます。こんなはずじゃなかったと思っても、トライアル期間なら日本に戻ればいい。完全な移住後だと、変更がききませんからね」

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