参考にした星野リゾート代表のひとこと

新しいブランドイメージに沿ってキーヴィジュアルを撮影し、Webサイトを刷新し、プレスリリースを打ちましたが、これだけでは大きな反響には結びつきませんでした。もちろん、関心を持ってくれる方はたくさんいましたが、人が実際に動くための動機づけがまだ不十分だったのです。

「ホテルのコンセプトは、繁忙期ではなく、閑散期に合わせてつくるべきだ」――とは星野リゾート代表・星野佳路氏の名言です。

繁忙期には放っておいても一定数の宿泊客はやって来ますが、閑散期は何も手を打たなければ閑古鳥が鳴いてしまう。それゆえ、例えば夏に人気のエリアなら、閑散期の冬に人が集まるような仕掛けを設定しておくことが重要というのです。

そう考えると、インバウンド向けのマーケティング方針をやめたこともあり、閑散期や平日にお客さんが集まるような仕掛けをつくることが急務でした。

湯河原の閑散期(10月〜2月)や平日にある程度自由に動くことができる人は、一体誰なのだろう。

真っ先に脳裏に浮かんだのは「長期の休みがあって自由な時間が多い大学の同級生たち」でした。この発見から、ターゲットはもっとシャープに研ぎ澄ます必要があったことに気づかされました。狙うべきは、「東京に暮らす20〜30代」ではなく、「東京の大学に通う大学生たち」だったのです。

大学生をどうすれば湯河原に呼べるか

では、「東京の大学に通う大学生たち」が思わず湯河原に来たくなるにはどうしたらよいのでしょうか? 彼らの抱えているインサイトとは一体何なのかを知るため、昼夜を厭わず毎日Twitter(現・X:以下、Twitterと表記)にかじりつき、大学生たちの行動パターンを徹底的にリサーチしました。

やれバイトがどうだ、学祭がどうだといったさまざまな情報の海の中で、ある時、ふと卒論に取り組んでいる人がたくさんいることに気づきました。(…)

もしも、上げ膳据え膳で食事が提供されて、いつでも温泉に入れる環境があれば、彼らはもっと卒論や卒制に集中できるはず……そう思ったある夜、私はTwitterでこう呟きました。

「大学生たちに、卒論を書きに湯河原まで来てほしいな」

しばらくして、フォロワーのひとりからこんなリプライが届いたのです。

「卒論学割パックみたいなものをつくってほしいです!」

その何気ないリクエストは大学生の抱えるインサイトと結びつき、頭の中に素晴らしいアイディアが浮かんできたのです。

「卒論を書きに来てください!」と訴えるだけでは人は動きませんし、「大学生は割引します!」というだけではさほどの訴求力はないでしょう。

「行く理由」を明確にデザインした企画をつくり込み、届けてあげることで、実際に行動を起こすハードルが大きく下がるのではないかと考えました。