「ある特定の行動をさせる遺伝子」は存在しない

1つの遺伝子からもたらされる影響は大きいと、あなたも学生時代に生物の授業で習ったと思います(「メンデルの法則」などを覚えていますか?)。

しかし、非常にまれな単一遺伝子疾患(訳註:ある1つの遺伝子の異常によって発症する病気。メンデル遺伝病ともいわれる)を持たない多くの人にとって、遺伝子が個々の人生にどのような影響を及ぼしているかについては、とても複雑でわかりにくいものです。

社交性の遺伝子、恐怖心の遺伝子、スーパーのレジ待ちに耐えられずかんしゃくを起こしてしまう遺伝子といったものはありません。

一方、知性・思考力・理解力から個性・人格に至るまで、私たちの複雑に入り組んだ反応の仕方や行動については、おそらく何百、何千もの遺伝子の影響を受けています。

例えば、あなたのお子さんの心配や不安(あるいは衝動性、恐怖心など)に対する遺伝的な傾向は、心配や不安に影響を与える何千もの遺伝子のうち、どの「遺伝子型」を引き継いだかによって決まっているといえます。

研究と親を見て勉強している子
写真=iStock.com/Milatas

遺伝子型にはリスクを取ろうとするものもあれば、リスクを避けようとするものもあります。そして、あなたの子どもがどんな行動特性を持つかは、リスクをおかそうとする遺伝子と、自分を守ろうとする遺伝子を、どれだけ受け継いでいるかで決まるのです。

私たちの反応や行動の仕方が複雑なのは、本当にたくさんの遺伝子の影響を受けているからで、この事実は、「子どもは一般的に親に似るけれども、必ず似るわけではない」ことの説明にもなります。

背の高い両親の間にも背の低い子どもが生まれる理由

バスケットボール選手同士のカップルから、背の低い子どもが生まれることがあります。背の高い人たちは、「背が低い遺伝子」(身長の伸びを抑える遺伝子)よりも「背が高い遺伝子」(身長を伸ばす遺伝子)をより多く受け継いでおり、そのために平均よりも高い身長になります。

ですが、彼らは「身長の伸びを抑える遺伝子」を受け継いでいないわけではなく、受け継いだ数が「身長を伸ばす遺伝子」よりも少ないだけなのです。

そして、私たちは遺伝子型を両親から半分ずつランダムに引き継ぐため、背の高い両親から「身長の伸びを抑える遺伝子」を偶然にも多く受け継ぐ可能性があるのです。

背の高い親は低い親に比べて「身長を伸ばす遺伝子」を多く持っているので、そのような可能性は高くはありませんが、起こり得ることではあります。だから、背の高い両親の間にも背の低い子どもができるのです。

頭のいい両親から平凡な知能の子どもが生まれることもあります。外向的な両親から内向的な子どもが生まれることもあります。

一般的に、子どもは(実の)親に似るものですが、子どもはすべて遺伝子のさいの目次第(つまり、父親と母親の遺伝子型のうち、どの50%がそろうか)なので、どんな子になるかは全くわからないのです。