「お客さまが欲しいと思う車を作るのが仕事」

【豊田】近頃(2018年当時)、EVのことをよく聞かれます。私はレースに行って、サーキット内のインタビューで「ガソリン臭いクルマが好き」なんて言っています。だから、豊田章男はBEVに対して反対しているんじゃないかと思われてしまう。でも、そんなことないんですよ。トヨタはバッテリーEVもハイブリッドもFCVもすべてやります(当時はまだマルチパスウェイという言葉は使っていなかった)。

それは、トヨタはお客さまが欲しいと思う車を作るのが仕事だからです。バッテリーEVだけに選択肢を絞るなんてことはできません。

野地さん、トヨタの現場をご覧になったと思いますが、トヨタ生産方式って、「必要なものを必要なだけ必要な時に」が原理原則です。

そして、「必要なもの」って政府や自動車会社が決めるものじゃないんです。お客さまが必要とする車をつくる。寒冷地や砂漠ではバッテリーEVでは心配だという人がいる。国によって場所によって条件が違うからあらゆる車を作る。お客さまにとって必要な車を作るのがトヨタです。

トヨタ工業学園卒業式の様子
撮影=長谷川智哉
トヨタ工業学園卒業式の様子

「数字だけを与えると人は何も考えなくなる」

トヨタの公式サイトにはトヨタ生産方式のジャスト・イン・タイムについて、「お客様にご注文いただいたクルマを、より早くお届けするために、最も短い時間で効率的に造る」と書いてある。

彼は当時のBEV偏重に逆らうために「すべての車を作る」と決めたわけではない。商品を買うユーザーがBEV、ハイブリッド車、FCV車のどれが自分に必要か判断するべきで、自動車会社が「これを作る。あれは作らない」と決めるわけではないと正論を言っただけだ。

彼はあの時から同じことを言ってきた。発言がブレたわけではない。

カーボンニュートラルについても、「敵は炭素で、エンジンではない」とこれもまた言い続けているが、こちらはあまり記事にはなっていない。

「豊田さん、トヨタは今、3位だから世界トップになったらいいのに」と聞いたら、「いや違います」と言下に否定した。

【豊田】台数とか数字は目標じゃないんです。それは違います。数字だけを目指すと間違いが起こる。そして、数字だけを与えると人は何も考えなくなる。トヨタの現場では考える人が働いています。考えて仕事をする会社です。ひとりひとりが現場で考えながら車を作っているんです。