現在50代の女性の両親は仲が悪かった。頻繁に夫婦喧嘩し、家は心の休まる場所ではなかった。父親は毎日浴びるように酒を飲み、酒に飲まれた。酔っては家族にグダグダ文句を連ねた。ある時、父親は入浴時に転倒。その姿を女性はどこか冷めた目で見ていた――。(前編/全2編)
こぼれた日本酒
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この連載では、「シングル介護」の事例を紹介していく。「シングル介護」とは、主に未婚者や、配偶者と離婚や死別した人などが、兄弟姉妹の有無にかかわらず、介護をひとりで担っているケースを指す。その当事者をめぐる状況は過酷だ。「一線を越えそうになる」という声もたびたび耳にしてきた。なぜそんな危機的状況が生まれるのか。私の取材事例を通じて、社会に警鐘を鳴らしていきたい。

犬塚家の人々

関東地方在住の犬塚紀子さん(50代・仮名)は、釣り用品を作る会社に勤務する父親と、市内の工業団地で働く母親の間に次女として生まれた。

「父は口も性格も悪く短気で天邪鬼で、人が『おいしい』と言ったら『まずい』と言うようなタイプでした。母はおとなしくて、真面目で控え目なタイプ。話すより聞き役に回る人でした。田舎育ちのせいか素朴で、着飾ったり贅沢したりせず、見栄を張ることもなく、物事を深く考えない人で、サッパリしていて、悩んだり落ち込んだりする繊細さは感じられず、何となく、掴み所のない人でした」

犬塚さんが物心ついた頃にはすでに両親の仲は悪く、2人が顔を合わせればいつもケンカをしていた。

「4歳年上の姉は誰にでも好かれ、どこでもうまくやっていけるタイプ。一方、私は理屈っぽく、可愛げのないタイプでした。子どもの頃、姉とケンカしたりすると、両親はまず先に私を叱るので、『どうしてケンカの理由も知らないのに、私のほうから叱るのか』と言ってよく怒っていましたね。私のほうがヤンチャだったので、大抵の場合、悪いのは妹のほうだろうと思われ、先に叱っていたのだと思いますが……」

両親は共働きだったため、犬塚さんは小学校に上がった頃から鍵っ子だった。

「当時は周りも皆同じような家庭でしたので、子どもたちだけで毎日遊び、特に寂しいとも思いませんでした。動物好きな一家だったので、犬や鳥やうさぎなど、何かしらのペットを飼っていましたね。悪い思い出といえば、やはり父が呑兵衛だったことでしょうか。両親の仲が悪く、いつもケンカをしていて、それが嫌でしたね」