高齢になってからのがんは進行も遅い

65歳以上のいわゆる高齢者人口は、1985年には10%ほどでしたが、2022年には29.1%となっています。発病の割合としては変わらなくても、母数である高齢者の数が増えているので患者数も増加しているのです。

また、年齢が高い患者が増えると手術や抗がん剤なども利用しにくくなり、治療困難となるため大腸がんによる死亡も増えるというわけです。

年齢が上がってからかかるがんのことを「天寿がん」と呼んだりもします。高齢になってからのがんは進行も遅く、死因としては「大腸がん」と書かれますが、在宅医として多くのがん患者さんを診た経験からしても、そこまでしんどいものではありません。

がんを手術で取っても、手術や入院の方が体に負担となったり、他の病気で亡くなる可能性も高く、手術で必ずしも寿命が延びるとは言えません。

大腸がんによる死亡が減らないもうひとつの理由は対策型がん検診の受診率が低いことです。大腸がんはステージ0、ステージ1の段階で見つけて治療すれば、治る可能性の高い病気です。

高齢(アメリカの学会では75歳)になったら検診しなくても寿命は変わらないといわれていますが、日本では40歳以上、アメリカでは50〜75歳の方に対して大腸がん検診が推奨されています。日本では大腸がん検診の受診率が低く、2019年のデータでは、大腸がん検診の受診率(40〜69歳)は男性で44.5%、女性は38.5%にとどまっているのです。

日本の方がアメリカより死亡率が2倍以上高い

これと対照的なのがアメリカで、2000年に38.2%だった大腸がん検診の受診率が2018年には66.8%に上昇しています。その結果、大腸がん患者の死亡率も低下しています。

2020年のアメリカ対がん協会の推計データによると、大腸がんによる死亡者は5万3200人。日本とほぼ同じ数字ですが、人口比は約2.6倍なので、日本の方が大腸がんの死亡率が2倍以上高いということになります。

アメリカでは大腸がんの死亡率は低下傾向にあり、日本では逆にこの20年で1.5倍に増えている。このことからも大腸がん検診による早期発見が、死亡リスクを下げる大きな要因であることがわかります。

「大腸がんが増えているのは食の欧米化や、マクドナルドが原因ではないか?」と犯人探しをする患者さんに出会うことがありますが、アメリカでの死亡率が下がってきていることなどから、どうもそれだけが原因ではなさそうですね。

日本でも、厚労省ががん検診受診率50%達成に向けたキャンペーンなどを行っていますが、思ったようには増加していないのが現実です。

大腸がん検診に限らず、がん検診全体を見ても海外と比べて日本の受診率は低くなっています。その理由のひとつは、医療へのアクセスしやすさの差だと思われます。

患者の腹部を触診する医師
写真=iStock.com/kokouu
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日本は国民皆保険制度があり、病院もきちんと整備されているので、ちょっとお腹が痛い程度でも病院へ行けばすぐに診てもらえます。

それに比べると海外は時間的にも金銭的にも受診のハードルが高いため、なるべく「病院にかかる」状況に至らないようにする意識が強いのです。

日本は医療へのアクセスがよいからこそ、本格的に具合が悪くなるまで病院に行かず、健康な人も予防にあまり興味が持てないという皮肉な状況にあるわけです。