黒人、ヒスパニック、アジア系も流れている

お金持ちの保守層が共和党を支持するのは理解できる。しかしなぜ、低所得者がトランプを支持するのか? それは、共和党が伝統的に白人の党だからだ。

辺境地域に住み経済的に持たざる層にとって、「白人であること」は唯一の、最も重要なアイデンティティなのだ。この傾向は、アメリカで白人の人口比が減り続け、2045年にはついに少数派になる(マジョリティ・マイノリティ)と予測される中で、さらに強まっている。

そのためトランプ氏は、自らが白人至上主義者であることを、はっきり打ち出している。多くの批判を受けつつも、白人であることにしがみつく人々にとっては、むしろプラスの要素になっている。

さらにもうひとつ、今回の大統領選には前回と違う不確定要素がある。黒人やヒスパニック、アジア系などマイノリティが、わずかだがトランプ支持に移行しているという調査結果があることだ。

彼らのようなマイノリティは、以前は圧倒的に民主党支持であり、前回選挙でバイデン勝利に貢献した。そんな彼らの気持ちが民主党から離れたとしたら、冒頭に述べた若者のバイデン離れと共通の理由なのか? また移民がある程度の経済力を得たために、共和党支持に変わったのか? 宗教的な要素も考えられるが、今のところ明確ではない。

ニューヨークの若者
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トランプ氏の狙いは若者・マイノリティに向いている?

では、トランプには弱みはないのだろうか?

実は彼は共和党支持者の中でも、中道保守に弱い。スーパーチューズデーまで食い下がって撤退したヘイリー候補は、得票率では3割を超えた州が8州、そのうちユタ州などでは4割を超え、バーモント州では得票率5割を超えてトランプ氏に勝っている。

つまりトランプ氏圧勝とはいえ、ヘイリー候補がここまで頑張ったことで、共和党支持者にも反トランプ勢がある程度いることがハッキリした。

特に高学歴の白人女性は、中道保守からリベラルに寄りつつあることもわかっている。この層が、11月の本選でバイデン氏に入れる可能性もある。

しかしトランプ氏は、こうした層が離れても問題ないと考えているフシがある。選挙人制度を採用する大統領選は、今や激戦州の少数の得票差で決まるといっていいからだ。

こうした州で、少数でも若者やマイノリティ票をバイデンから剝ぎ取れればいい。あるいはバイデン氏を嫌って第三党に入れる人、または棄権する人が増えた場合も、自分の有利になる――そう読んでいてもおかしくはない。

しかし、こうした票の動きをはっきりと見極めるのは困難だ。

アメリカは大きく多様化している。その中で同じ人種でも若者でも、環境や学歴、階層によって、政治的な考え方が異なっている。しかもその状況は非常に流動的だ。2024年のアメリカは、2016年とも2020年ともまったく違う世界になっているのだ。