通勤客がどんどん戻っているのに、本数減が進行中

一方で関東各社は、定期利用が大幅に減少しながらも、定期外利用はコロナ前に戻るという、長期的に見れば決して悪くない傾向にあり、積極的に運行本数の減少を進めることになった。

だが、ダイヤ改正には各部門・各社との調整や車両、人員の手配が必要で、計画から実施まで通常1~2年かかる。コロナ後に着手した改正は2022年頃に形になるが、その時には利用は回復傾向にあった。

現状では混乱が生じるほどではないが、もう一段階利用が戻ってくれば、さまざまな路線で齟齬そごが生じる可能性がある。例えば東武鉄道は2024年度から野田線に導入予定の新型車両を現在の6両から5両へ減らす方針だが、手戻りは生じないのか、今となっては適切なのか。

ここまで示した輸送人員はあくまで全線合計の数字であり、実態は路線ごとに異なるが、詳細なデータは非公表で、外部からわからないことが多い。だが、さらに利用が回復した時に「サービス縮小」が利用者や沿線自治体の目にどう映るのか。公共の担い手として、丁寧に説明する必要があるだろう。

もうひとつ頭を悩ませていると思われるのが、運賃値上げに踏み切った各社だ。2022年1月に運賃改定を申請し、2023年3月18日に値上げした東急は、改定の根拠となる輸送需要予測において、2023年度の輸送量を通勤定期約5億5843万人、定期外約4億4948万人としていた。

しかし、最新予想では定期は5%増の5億7982万人、定期外は4%増の4億7230万人と上回り、運賃収入は1346億円から1440億円へ、100億円近く上回る見込みだ。

「定期旅客は70%程度しか戻らない」は甘かった

東急は2021年5月に行われた2020年度決算説明会で、株主の質問に対し「今後の輸送人員の回復予測に関しては、2023年度までに定期外旅客は従前水準に戻ると想定しているが、定期旅客においては従前の70%程度しか戻らないと考えており、輸送人員全体では従前の85%程度となる想定でいる」と回答している。

実際、東急は大手私鉄15社で最も通勤定期利用者が減少した事業者であり、2020~2022年まで70%程度の水準で推移してきた。沿線にIT企業が多く、在宅勤務が定着したためと説明されてきたが、「コロナ収束」を待ち、電車通勤に回帰する層が一定数いたようだ。結果、定期利用者は予測を超える84%まで回復。定期外との合計では89%となった。

東急に続き、近鉄や南海、京王、京急が運賃改定を行ったが、いずれも改定の5年後に収支実績を確認し、必要に応じて再度、運賃改定を行う条件付きで認められた。今後、予測と実績のギャップが争点となり、場合によっては5年後に値下げが行われる可能性もある。

いずれにせよ2024年度は「アフターコロナ」の姿が明らかになる一年となるだろう。まずは4月末以降発表される2023年度決算が、最新予想からどの程度上振れするかに注目したい。

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