人数が少ないから一人ひとりが大切にされる

A高校は島で唯一の高校で、健斗くんは第一期の留学生だった。同級生は18人。そのうち島外からの留学生が8人だった。以前のA高校は入学者が減り、存続の危機にあった。それが留学生の受け入れ以降、入学者がほぼ倍増したことになる。

ただ、人数が増えたとはいっても、健斗くんが3年生になった時点で全校生徒は58人。都市部の学校に比べると圧倒的に少人数だ。じつは、そこにポイントがある。

「初めてA高校へ見学に行ったとき、2年生の先輩たちがバレーボールをやっていたんですよ。でも、8人しかいないから、4対4でやっていたんです。そうすると、一人ひとりが普通よりがんばらなきゃいけないじゃないですか。たとえ下手な人がいても、試合を成立させるために、他の3人でフォローする。そういう姿を見て、『過疎地域の学校ってそういうことか!』と気づいたんですね。人数が少ないからこそ、一人ひとりの存在が大切。みんなががんばらないとクラスも部活も回っていかない。ここなら自分が必要とされるし、輝けるんじゃないかなって思えたんです」

バレーボールをする人たちのネット越しの手
写真=iStock.com/zamrznutitonovi
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1学年18人しかいなければ、クラスメートとの付き合いは必然的に深くなる。教師の目も生徒一人ひとりに届く。少子化や過疎化というと、負の側面ばかりが語られるが、子どもたち一人ひとりが尊重され、活躍のチャンスが増えるというプラスの側面もあるのだ。

島のアナウンサーとして大活躍

「自分は必要とされている」。その感覚が健斗くんを積極的にさせた。学校ではバスケ部と放送局に所属し、新しい自分を発見した。

「初めて人前でしゃべるのが楽しいと感じるようになったんです。そういう自分に気づけたのも、人が少なくて、たくさん“打席”が回ってきたからだと思います。チャレンジする機会が多ければ、それだけ可能性も広がりますよね」

校内放送や、朗読大会に出場するなどの活動を続けるうち、健斗くんは声優やアナウンサーの仕事に興味を持ち始める。それを知った町の担当者のはからいで、健斗くんは島内放送のアナウンスも任されることになった。それ以来、町の至るところで「放送よかったよ」と声をかけられるようになった。

高校生が学校の外に出て、大人と関わりながらさまざまな活動をし、学び、成長していく――まさに地域みらい留学ならではの経験である。

健斗くんは、3年生になると生徒会長にも自ら立候補した。全校生徒を前に堂々と話す姿には、不登校で苦しんでいた中学時代の影はもうなかった。

「不登校時代は過酷な旅でした。つらい思いをしたし、まわりにも迷惑をかけたけれど、その経験があったからこそ島に行って、いろんな人と出会い、自分のことを深く見つめられるようにもなった。いまは、不登校も自分にとってはいい経験だったのかなと思っています」