なぜか床にニシンが落ちている

A高校のある島は、人口2300人ほどの小さな島だ。島に渡った健斗くんは、海と山に囲まれた島の雄大な自然に圧倒された。

「コンビニが島に一軒しかないぐらいの過疎地、地方のなかの地方なんです。逆に言うと自然が豊かで、しばらく過ごすうちに『毎日同じ景色ってないんだなあ』ということに気づきました。自然って本当に一日一日変わっていくんです。今日の海は昨日と色が違う、今日は空気が澄んで山がきれいに見える。そういうことを感じるようになりました。

都会で過ごしていると、季節の変わり目を感じる機会ってあんまりないですよね。でも、島では『今日は雪が50センチ積もった』とか『寒すぎて涙が出てきた』とか『床にニシンが落ちてた』とか(笑)。そういう経験から季節の変化を身近に感じられる。いま思うと、そういう経験を15歳から18歳という一番多感な時期にできたのは、すごくよかったなと思います」

山の上から雪景色を眺める少年
写真=iStock.com/Emilija Milenkovic
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「世界は広い」と感じられた

知らない土地、初めて会う同級生たち。緊張感がなかったわけではない。でも、心を開いて、自分がどういう人間なのか、積極的にアピールした。「中学のときは不登校だった」と打ち明けるのは勇気がいった。でも、クラスメートは「大変だったね」と自然体で受け入れてくれた。

自然や人との触れ合いが、硬く縮こまっていた彼の心を解きほぐしていった。もともとまじめな性格。不登校になる前は、勉強も部活もがんばり、どこか心が疲れていたことにも気がついた。

「いま思えば無理していたのかもしれません。自然のなかで過ごすうちにもっとゆるくていいのかもって思えるようになりました。小学校や中学校って、教室内で全部完結しちゃうというか、狭い世界じゃないですか。初めて自分の知らない土地に来て、世界ってこんなに広いんだと思った。島に来て、僕は本当の自分に会えたような気がするんです。必ずしも生まれた場所で過ごす必要はないし、無理してがんばるより、自分がいきいきできる場所で、本当の自分を見つけるのが大事なんじゃないかなと思います」