「上手くなる=面白くなる」ではない

といっても、私たちだって二十代半ば。世間でいえば若造ですが。ただ、こっちはアイドル番組を何本か経験してやり方がわかってきています。

「そこは、もうちょっとわかりやすく説明した方が伝わりますよ」「そういう言い方だと誤解されるかもしれない。ちょっと言い方を変えてみたらどう? たとえばこんな風に……」とか。本人が喋ろうかどうしようか迷っている時は、「ファンはそういう話こそ聞きたいと思う」などのアドバイスができます。

手を組んで正面の相手と話すビジネスマン
写真=iStock.com/fizkes
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そうやって番組を三カ月もやっていると、彼女たちはしだいにトークが上手になるのです。いえ、面白いことを言うとかそういうことではありません。日常にあったことをわかりやすく語ったり、自分の気持ちをちゃんと自分の言葉で言えるようになる。誤解がないように言葉も選べる。なんだそんなこと……と思うかもしれませんが、人はこれが意外にできないものなのです。

その頃、テレビではベストテン番組が花盛りでした。アイドルは番組で歌う前後に、司会者に短くインタビューされたりします。私はテレビを見ていて、ラジオをやっているアイドルとやっていないアイドルでは、受け答えが違うことを発見しました。

ラジオ番組をやっていないアイドルは、司会者の質問に「ハイ!」「そうですね」「嬉しいです」などの簡単な返事が多い。おそらく誰にも嫌われないために、マネージャーに教えられた無難な受け答えなのでしょう。いえ、それでもいいのです。可愛い女の子がニコニコ笑顔で答えていれば、ファンは十分に喜んでくれます。

ラジオ経験の有無はアイドルをどう変えるのか

ラジオ番組をやっているアイドルは、もちろんニコニコと答えるのですが、それに加えて「私は****なんです」とか「それは****だから苦手です」など、自分の気持ちや考えが言える。そして結果的に、そういう風にちゃんと喋れるアイドルが消えずに残っていく。

「ああ、ラジオ番組というのは、アイドルたちが一人でちゃんと喋れるように育てる側面もあるんだな」と思いました。だから、所属事務所やレコード会社はアイドルにラジオ番組を持たせようとしていたのでしょう。

そうやって元々あまり喋れない新人アイドルのために台本を作っているうちに、トークの展開のさせ方がわかってきました。台本上で、あるいは打ち合わせで、「こういうことありますか?」と聞いてみたり、出てきた話を受けて「そっちより、こっちのエピソードの方がいいですね」とか、「そこはこういう話し方をしてみてはどう?」などとアドバイスをする。つまり番組では、アイドルが自分の頭の中を整理し、相手に伝わるように話す練習を毎週やっているのです。

それを繰り返すことで、私もまたアイドル番組に育てられたということになるんだな……と今にして思います。アイドルにかかわらず、基本は誰でも同じだと思っています。「ちゃんと喋れるアイドルが消えずに残っていく」の一歩隣に「トークのできる芸人が消えずに残っていく」がある。だから私は、のちにまだメディアでの喋り方に慣れていない芸人さんにアドバイスするようになったのでしょう。