頑なに大幅な金融緩和策を取り続ける日銀

物価上昇、つまりインフレを抑える伝統的な手法は「金利の引き上げ」である。米国や欧州の中央銀行はこの2年、猛烈なピッチで利上げを行ってきた。米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年3月にそれまでのゼロ金利政策を解除、利上げを開始。2023年7月には政策金利を5.25%から5.5%幅とした。ようやく物価上昇率は鈍化したものの、依然として米国経済は強さを保っていて、FRBが利下げに動く気配はない。また、英国でも2022年後半に物価上昇率が前年比10%を突破、英中銀は同様に利上げを繰り返した。

晴れた日のワシントンD.C.にあるFRBの建物
写真=iStock.com/Tanarch
※写真はイメージです

欧米各国は物価上昇を抑えるために、金利を引き上げ、過熱した経済を冷やす手法をとっている。

一方で日本は、この伝統的な物価抑制策に、背を向け続けている。日本銀行は「物価安定の目標」を2%として掲げている。すでに22カ月連続で2%を超えているが、依然としてマイナス金利政策を続けているのだ。昨年来、市場では「マイナス金利解除は近い」との観測が強まっているが、頑なに日銀は大幅な金融緩和策を取り続けているのだ。

「円安の加速」という副作用が出ている

1月の記者会見で日銀の植田和男総裁はデフレからは「かなり遠いところに来ている」と発言していたが、それでも金融緩和政策は維持した。一気にマイナス金利を解除した場合、先行き予想から市場金利が大幅に上昇することを恐れているのか。デフレに舞い戻ることがないよう、インフレ・マインドが定着するまで放置しようとしているのか。真意は分からない。

植田総裁は就任時には2023年秋には物価上昇が収まるとの見方を示していた。物価上昇から1年がたてば、上昇率を計算するベースが高くなるわけで、上昇率は収まってくるという計算だったのだろう。だが、現実には物価上昇の勢いが衰えたとは言い難い。

しかし、物価上昇が収まらない中で、様々な副作用が出始めている。物価を抑えるために巨額の補助金を使えば財政が悪化する。そうでなくとも日本の財政は巨額の赤字だ。そうなると日本円の価値が劣化していく。つまり、円安が加速するのだ。大方のエコノミストの予想では米国の金利引き上げで、2023年後半には米国は景気減速に入り、FRBは金利の引き下げに動くとされていた。そうなると日米金利差が縮小するので為替は円高方向に動くとしていたが、米国経済は一向に減速せず、円安が加速している。