事実上「EV以外のクルマは売るな」

バイデン政権の厳しい基準を満たさないクルマは、1台の販売につき、最大4万5268ドル(約679万円)という極めて懲罰的な罰金が課される。事実上「EV以外のクルマは売るな」ということだ。EV補助金という「アメ」に対する「ムチ」である。

だが、政府が国民の買うモノを決めるのは、市場経済において消費者の選択の自由を奪うことになる。

その「消費者」から見ても、あるいは売れないEVを赤字覚悟で作らなくてはいけない「メーカー」から見ても、EV在庫が積み上がる「ディーラー」から見ても、このバイデン政権の計画は非現実的なものだ。

どれだけ多くのEVを作っても、消費者が買ってくれなければ「取らぬたぬきの皮算用」だ。

事実、バイデン政権はその急進的な政策が消費者・メーカー・ディーラーすべてから反発を受けている。前述の排ガス規制計画の緩和は、そうした反発の結果、譲歩を迫られた形だ。

マジョリティ層に売れていない

裕福さで上位10%ほどに相当するアーリーアダプター(初期導入層)によるEV購入は一巡している。一方、一般的な購入層であるアーリーマジョリティ層や、それらの消費者からさらに遅れるレイトマジョリティ層は、現状たくさんあり過ぎるEVの欠点が大きく改善されない限り、EVの購入を急がないだろう。

そうした傾向が、EV販売の減速と在庫の積み上がりとなって表れている。

マジョリティ層に売れていない
写真=iStock.com/ImpaKPro
マジョリティ層に売れていない(※写真はイメージです)

2025年から2026年には、多くのメーカーからEVの廉価モデルが出揃うと見られている。また、充電スタンドの数も順調に増加し、航続距離など性能も改善されていくだろう。

だが、アーリーアダプターと違い、一般消費者はトータルな保有コストや利便性を重視する。そうしたマジョリティ層の大半にとって、EVはライフサイクルの環境合理性や経済合理性において、明確にハイブリッド車を凌駕するには至っていない。