【事例①】「地元の企業同士で若者の取り合いになる」

東北地方で100人ほどの従業員を抱える製造業のA社。創立から100年以上の歴史を誇り、その市に住む人なら誰もが知るような地域企業である。

代表取締役も代替わりして、これまでにない規模の設備投資をおこない、最新の機材を入れるなど大きな経営判断を経ている。その技術に目を付けたのか、私がうかがった際にはあるグローバル企業が工場を視察しているところに出くわした。

そんな地域を支えるA社の代表取締役は、経営者として人手不足をどう感じているのか。

「人手不足の問題は経営上、優先順位が非常に高いです。デザイナー職や営業職はおかげさまで足りています。ただ問題は、肝心の現場でモノをつくる作業をする人材です。全然、採用はできていません。中途採用も多く採っていますが、現場職への応募はまったくないのです。取り合いになっているので、より条件のいいところに行っているのかもしれませんが……」

モノづくりの根幹を支える生産工程に携わる人材が、まったく採用できていない。そんな危機感を強め、A社ではやれることはやろうと、手を打ちはじめていた。

「労働環境改善に強い関心があるんです。とくに女性活躍を進めており、なんとか働きやすい会社にしようとしています。その結果か、すでに社員の45%は女性です。厚生労働省が女性活躍の推進が優良な企業を認定する『えるぼし』も取得しました。まずは女性が仕事をしやすい環境にしないと、人手不足の問題がまったく解決されないからです。

また、現場の労働環境も人手がなるべくかからないよう自動化を進めており、モノづくり現場の“3K”のイメージを変えていこうとしています」

社員の賃上げは毎年実施

地方の中小企業が抱える人手不足の問題をどう解決するのか。試行錯誤の様子が垣間見える。さらに、A社では労働環境の改善だけでなく、賃上げにも取り組んでいた。

「社員の人数が減っても効率的にどう回すかも考えています。“賃金を上げましょう”という社会環境になってきたので、1人あたりの賃金を増やすためにも効率化が必要です。社長としても、社員の賃金は上げたいし、とくに若くて未来のある人や、がんばっている人にはしっかり報いたい。弊社でもベースアップはここ数年、毎年実施しています。今年は弊社として近年で最高水準の引き上げをしましたが、すべて人手不足対策のためです」

労働環境改善、賃上げ、こうした手を打ったうえで、老若男女の多様な人材に魅力的な会社をつくろうとしている様子がうかがえる。驚いたのは、人材採用の実際について、会社のトップである社長が相当に詳しかったことだ。

「シニアの方はもともと弊社には少なかったのですが、今は60歳以上のスタッフが15名います。ここからさらに増えていくと思います。『まだまだ、働きたい』という人が多いのは頼もしいですね。もちろん、若手の採用もしています。新卒採用では、大学生のインターンシップを毎年、2週間ほど実施して10名前後受け入れているんです。

だいたいこの中から、入社者が出てきています。正直、インターンシップの受け入れは大変ですが、先行投資としてやっています。面接では、当たり前のように『土日は必ず休みですか』とか『残業はどれくらいありますか』と聞かれますね(笑)」