共働き世帯が片働き世帯を上回るようになって久しい。今、専業主婦は夫が高収入の世帯と低収入な世帯に二極化している。社会学者の上野千鶴子さんは「夫の所得階層別で見ると、年収100万円未満の世帯で妻の有業率がもっとも低い。貧困なのになぜ働かないか。背景には貧困層ほど伝統的な性別役割分担を受け継いでいることがあるように思える」という――。

※本稿は、上野千鶴子『こんな世の中に誰がした?』(光文社)の一部を再編集したものです。

専業主婦は社会的に消えていく存在

結婚している夫婦のあり方にも変化が起きています。

1980年代は、片働き世帯が圧倒的に多かったのですが、1997年には共働き世帯が片働き世帯を上回るようになりました。以後、夫婦のダブルインカム率はどんどん高くなっています。

社会学者 上野千鶴子さん
社会学者 上野千鶴子さん(撮影=市来朋久)

今、専業主婦のいる世帯は圧倒的少数で、2021年で片働き世帯は23.1%にすぎません。20代に専業主婦願望を持つ女性が増えていると言いますが、その望みはほぼかなえられないでしょう。夫の収入が思ったほど増えず、妻の収入がないと家計を維持できなくなってきたからです。夫ひとりが大黒柱だった時代は終わりました。

ダグラス=有沢の法則と呼ばれる経験則があります。それは日本社会では女性が高学歴であるほど結婚したら専業主婦になる確率が高い、というもの。高学歴女性は同じく高学歴男性と結婚しますから、夫の収入と妻の有業率が逆相関するという経験則でした。ですが、この法則が当てはまるのは80年代まで。80年代以降、すべての経済階層で妻の有業率が上がり、夫の収入と妻の有業率が相関しなくなりました。かつて専業主婦は裕福さのシンボルでしたから、多くの女性が憧れましたが、今や妻の有業率は所得のトップとボトムで低く、「貧困専業主婦」と呼ばれる層が登場しました。

格差が問題になる中、カップルになるとそれが倍に

ただし本書の第一章でお話ししたとおり、妻の就労にはフルタイムの就労と家計補助型の非正規就労の二種類があり、夫と同等の収入がある妻は少数派です。この少数派のなかに「バリキャリ」と言われる年収1000万円以上の妻もいます。彼女たちの夫は同等以上に稼ぎますから、世帯年収が2000万円を軽く超えるパワーカップルも登場しました。

男性が結婚相手に求める条件にも、「容姿」や「家事力」ばかりでなく、稼得力が含まれるようになりました。欧米では、ここ10年以上前から、男性が配偶者に求める条件の上位に稼得力が入ってくるようになりました。ひとりでも格差が大きいのに、カップルになると格差は倍になります。