放送し過ぎて「飽きられた」

現在、江頭さんはサンパウロ近郊のコンドミニアムで農場を経営しながら暮らしている。

「私は会社経営に必死でしたから、特撮ドラマを一つひとつ見る余裕はありませんでした。結局、他のテレビ局も特撮ドラマに参入して、次々に放送したものですから視聴者に飽きられちゃったんです」

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自宅の書斎で取材に応じる江頭俊彦さん

90年代の特撮ドラマ放送はTVマンシェッチが95年に放送した『特救指令ソルブレイン』が最後となった。ブームを起こしたにもかかわらず財政難を克服できなかったTVマンシェッチは、99年に他の経営者に買収されたことで社名を変え、放送内容も一新された。それに押し出されるように江頭さんは同年、エベレスト・ビデオを解散したのだった。経営者としては当時の特撮ブームへの投資は、結果として苦いものだったようだ。

本人の当時の葛藤や苦悩をよそに、特撮のコア層は、今でも親しみを込めた“トシ”のニックネームで、江頭さんをブラジル特撮界のパイオニア、あるいは“神様”として仰いでいる。ファンは熱狂的なブームが去った後も第2波を期待している。

1日に17本放送は「完全に誤った戦略」

『仮面ライダーBLACK』のエンディングテーマで、愛しみを込めて歌われた20世紀は過去のこと。今世紀、ブラジルにおける特撮ヒーロー人気は再燃しているように感じられる。

新旧の特撮ヒーローフィギュアを前に語るサトウ・カンパニー代表の佐藤ネルソンさん
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新旧の特撮ヒーローフィギュアを前に語るサトウ・カンパニー代表の佐藤ネルソンさん

「私もかつてトシから買った海賊版ビデオをレンタルしていました」と話すのは、現在ブラジルとラテンアメリカ諸国で日本製を含む各種映像コンテンツの配給を担う「サトウ・カンパニー」社長の佐藤ネルソンさん(62)だ。

同社は昨年から今年にかけて『ゴジラ-1.0』『君たちはどう生きるか』のブラジル劇場公開の配給を手掛け、今波に乗っている。

日系3世の佐藤さんは江頭さんより早い81年にレンタルビデオ店を開き、1985年に配給会社「ブラジル・ホームビデオ」(1988年にサトウ・カンパニーに名義変更)を設立。日本やアメリカの映画作品のビデオ販売から始めた佐藤さんだったが、江頭さんが東映の特撮ドラマをブラジルのテレビ局に売り込んだのに触発されて1990年に東宝の『電脳警察サイバーコップ』をTVマンシェッチに売った。

サトウ・カンパニー代表の佐藤ネルソンさん
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ブラジルでの今後の日本製特撮ドラマの人気のゆくえは、佐藤さんの手腕にかかっている

「ブラジルの全テレビ局が競って特撮ドラマを手掛けたことで、1993年には最多で1日に17作品が放送されていました。そりゃ飽きられますよ。完全に誤った戦略です。特撮ドラマの飽和とTVマンシェッチの倒産から私は事業多角化の必要を学びました」と振り返る。

サトウ・カンパニーはその後、日本のみならず、アメリカ、ブラジル、中国、韓国などの幅広いコンテンツを手掛けてきたことからネットフリックスの目に留まり、2011年にラテンアメリカから初めて同社のコンテンツ・アグリゲーターとなり現在に至る。