血液検査の結果、診断が確定

退職後、Aさんは派遣社員として再就職しました。勤務時間が短くなって症状が改善することを期待していましたが、一向に改善しないまま、とうとう2年が経過してしまいました。

Aさんはようやく重い腰をあげて、私のクリニックを受診します。

私のクリニックは男性更年期障害専門のクリニックです。実は、前述の産業医が、Aさんとの面談で、うつ病以外に可能性がある病名として「男性更年期障害」をあげていました。Aさんはそのことを覚えていたのです。

結局、問診と血液検査の結果により、Aさんは加齢によって男性ホルモンであるテストステロンが減少することで発症する「男性更年期障害」と診断されました。

採血管
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血液検査の結果、診断が確定(※写真はイメージです)

うつ病と診断されやすい

このAさんのケースは決して他人事ではありません。

男性更年期障害では、「気分の落ち込み」「記憶力、集中力の低下」「イライラ」「疲労感」といった症状が見られます。

このほか「気分の変動」「エネルギーの低下」「睡眠障害」「悲しみの感情」「性欲減退」「活動への興味減退」なども特有の症状です。

これらはうつ病の症状と非常に似ており、症状が改善されないことも珍しくありません。そもそも血液検査でテストステロンレベルを測定しない限り、男性更年期障害と確定するのは難しいからです。

実際、私のクリニックを受診する方の約10%が、過去にうつ病と診断された経験があります。

男性更年期障害がうつ病と診断された場合、Aさんのケースのように抗うつ薬や抗不安薬が処方されるケースもあります。ただ、一部の抗うつ薬や抗不安薬にはテストステロンを減少させるものがあるため、男性更年期障害が悪化してしまう恐れがあるのです。

そうならないよう、うつ病の症状が良くならない状態が1年以上続くのであれば、専門医を受診することをおすすめします。

「更年期障害は女性のもの」ではない

更年期障害は女性のもの、というイメージが強く、男性の更年期障害はまだあまり認知されていないようです。そのため受診する人が少ないことも、うつ病と勘違いしやすい一因だと考えられます。

さらに、一般的な健康診断での血液検査には、テストステロンを検査する項目がないため、会社の定期健診などで発見されないことも原因だと考えられます。

40代から崩れやすくなる

一般的にホルモンバランスは40代から崩れやすくなると言われています。

私のクリニックを訪れる患者さんの年齢層は30〜60代と幅広く、最も多いのは50代です。

中年男性
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40代から崩れやすくなる(※写真はイメージです)

生まれつきテストステロンが少ない、若年性の男性更年期障害もありますが、多くは加齢とともに発症します。

もし、中年の男性で以下のような症状がある方や、うつ病の治療中で1年以上改善しない場合は、ぜひ専門医を受診してください。

【男性更年期障害の症状】
1 エネルギーの低下:一般的な疲労感や活力の欠如。
2 気分の変動:気分の落ち込み、不安、イライラ感。
3 睡眠障害:睡眠の質の低下、不眠症、または過度に眠い。
4 性欲の減退:性的興味の減少や性的活動に対する意欲の低下。
5 勃起機能の問題:勃起を維持するのが難しくなる、勃起の質が低下する。
6 筋肉量と体力の低下:筋肉が減少し、以前よりも体力が落ちる。
7 体重増加:特に腹部周囲の脂肪が増加する。
8 骨密度の低下:骨がもろくなり、骨折しやすくなる。
9 集中力の低下:作業に集中するのが難しくなり、仕事や日常活動に影響が出る。
10 記憶力の問題:記憶力が低下し、物忘れが増える。