「屋敷しもべ妖精解放運動」

――それでも映画に不満を感じるのでしょうか?

やはり原作のストーリーの力が人気の最大の要因だと僕は思いたい。前編でも話しましたが、映画は小説で描かれた2割程度しか描いていない。

1、2作目はまだいいんですが、どうしても4作目以降の映画は、小説のダイジェスト版みたいになっています。キャラクターの性格を表すエピソードが省略されているため、人物の深掘りができていないので、ストーリーに入り込めない部分があると思うんです。

映画版でカットされたエピソードに「屋敷しもべ妖精解放運動」というのがあります。

ハリー・ポッターの世界に、「屋敷しもべ妖精」というキャラクターがいます。魔法使いや魔女の家庭に仕え、解放されない限りは主人の言うことに必ず従わなければいけない妖精です。映画版では主にドビーというキャラクターのみが登場しますが、原作では大量に存在する姿が描かれている。

4作目『炎のゴブレット』で主人公のひとりハーマイオニーは、この屋敷しもべ妖精を開放すべきだと主張し、社会運動を学校内で始めるんです。

とはいえ、この妖精は原作内では主人に従うことしかない生き物なのです。だから、妖精側もこの運動に困惑するし、親友のハリーやロンにも「もうそんなことしなくてよくない?」と距離を置かれるんです。

ハーマイオニー・グレンジャー役のエマ・ワトソン、ハリー・ポッター役のダニエル・ラドクリフ(右)、ロン・ウィーズリー役のルパート・グリント。J.K.ローリング原作の映画『ハリー・ポッターと謎のプリンス』より。2007年12月19日撮影
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
ハーマイオニー・グレンジャー役のエマ・ワトソン、ハリー・ポッター役のダニエル・ラドクリフ(右)、ロン・ウィーズリー役のルパート・グリント。J・K・ローリング原作の映画『ハリー・ポッターと謎のプリンス』より。2007年12月19日撮影

原作と映画で違うハーマイオニー

【ニシダ】ハーマイオニーは、原作だと、思想が強く少し厄介な人間なんです。正義感が強くて、自分の行動を疑わない。「あ〜、こういうヤツ大学にいたな」なんて思いますよ。大学の授業と関係ないところでビラ配ってきそうなタイプ。実際いたら絶対仲良くなれないでしょうね。

とはいえ、そんな完璧ではない性格だからこそ作品にリアリティが生まれるんだと思うんです。そもそもが地味な子という設定なんで、役を演じたエマ・ワトソンはかわいすぎましたね。

映画では解放運動のシーンはカット。ハーマイオニーは「聡明で正義感の強い美女」で終わってしまいます。

――このほかに、映画では描かれなかったエピソードはありますか?

孤児のハリーは、魔法学校に入るまで親戚のダーズリー家で過ごします。

ダーズリー家には散々意地悪をされ、彼らを好きな人はいないでしょう。ハリーもダーズリー家から出て行ってせいせいしているといった感じなんですが、小説では最終的にハリーはダーズリー家と和解しています。

そのほか、省略されたシーンはたくさんありますが、映画は映画で好きです。なにより僕は、映画に対して文句があるんじゃないんですよ。

僕はただ、映画だけ観てわかった気になっている人たちに文句があるんです。

「ハリー・ポッターの世界のことなんもわかってないよ」「なんでスネイプが死んで泣いてんの?」「これだけの情報で泣ける?」みたいな。作り手ではなく受け手に対しての文句です。われながら厄介なヤツですね。すみません。