派閥で失うもの(4)女性総理候補

なぜ、派閥の幹部は派閥の掛け持ちを許さず、新人議員を囲い込むのか。先輩議員に相談ごとをすることで「借り」を作り、先輩は「貸し」を作ることで、そこにいい意味での「貸し借り」関係が生まれる。きっと会社生活でも大なり小なりこうした人間関係はあるはずだ。

派閥解消により以上のようなつながりは確実に希薄なものにならざるを得ないだろう。人間関係の絆が弱まり、総裁選の際の議員間の駆け引きはより複雑微妙なものになって、票が読みづらくなるのは必至だ。

先日、麻生太郎副総裁が上川陽子外務大臣のことを「おばさん」だの「美しい方とはいわない」だのと形容し、世論から大ヒンシュクを買った。麻生氏の真意は「今、新しいスターが育ちつつある」という意味だったようで、上川氏も目くじら立てずに柳に風と受け流した。次期総裁候補として、上川氏を世間に売り、自分がキングメーカーとして君臨したいという思惑が透けて見えると評するコメンテーターもいる。

前回の総裁選は、高市早苗氏と野田聖子氏が総裁選に手を挙げ、総裁候補者の半分が女性だった。これまでにないことだった。上川氏も派閥が解散された今、20人の推薦者を集めれば立候補は可能だ。また小渕優子選挙対策委員長は平成研(茂木派)を退会し、小渕氏を中心とする新たなグループができそうな雰囲気もある。そうした意味で、次回の総裁選は多くの女性が候補者になりうるかもしれない期待も高まっている。

しかし、自民党議員に女性が占める割合は約1割。人数が少ない上に、女性議員は群れない。“ボーイズクラブ”の男性議員は夜な夜な一緒に飲みに行って親交を深めるが、女性議員は必ずしもそうしない。女性をトップとした派閥は麻生派に組み込まれる前の山東昭子氏がトップだった山東派くらいで、これまで女性がトップとなり、総裁候補とした派閥はなかった。

前回の総裁選も、故安倍晋三氏のおかげで高市氏、二階俊博氏のおかげで野田氏は推薦人を確保することができ、立候補が可能となった。裏ではキングメーカー同士の戦いになっていたのである。派閥(派閥のトップ?)のおかげで無派閥の女性議員は総裁選に立候補することができたともいえる。

今回の派閥解消によりキングメーカーたちの縛りはなくなる。男性議員からもたくさんの候補者が立候補すれば、総裁選はカオス化するだろう。推薦人20人を集めた男性候補がタケノコのように手を挙げる可能性がある。

ただし、安倍氏亡き後の高市氏、秘書が立件された二階氏を後ろ盾とする野田氏の2回目立候補は厳しくなるかもしれない。麻生氏の発言で知名度が上がった形の上川氏はいわば赤丸急上昇だが、党内から「どんなご支援もありがたく受け止める」環境の整備が大事になってくる。河野太郎氏が立候補すれば、麻生派も結局のところ分断され、岸田総理が再選を目指そうとすれば、旧宏池会の推薦は難しいからだ。小渕氏も青木幹雄氏亡きあとどのくらい支持を広げられるか未知数である。

結局のところ、派閥解消の影響で、有象無象のボーイズタケノコクラブたちが立候補すれば、日本初の女性総理候補はむしろ立候補さえ難しくなるというジレンマをはらむ。

以前なら、派閥の幹部たちが「女性議員の○○を推そう」と言えば、それでまとまった推薦人を確保できたかもしれないが、現在の流動的な党内では、女性候補が立候補して勝ち上がっていくのは至難の業だ。もしそれができるとするなら、それは岸田総理かもしれない。そんな声が永田町から聞こえてくる。

国会議事堂
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旧宏池会を丸々上川氏に禅譲し、麻生派の一部と安倍派、茂木派の一部を巻き込んで、いわば“キングメーカー”岸田として上川氏を擁立するというのだ。もちろん、麻生氏もキングメーカーたりえるが、河野氏を抱える麻生派は総裁選では分裂含みだ。

これまで「第4派閥」と弱小で肩身の狭い旧宏池会だったが、解散しても結束は強く、退会者が続く茂木派とは異なり、1つの塊として行動できる。国民からの支持は依然低迷しているものの岸田総理は当面続投する公算が大きいのだ。

安倍派はずっと党内与党だったので、党内野党になろうという人たちは少ない。麻生派は河野氏が立候補すれば分裂し、茂木派も茂木氏が立候補したとしても、派内の全員が応援するかわからない状況にある。石破氏は菅グループや二階派が応援するかもしれないが、広がりに欠く。

自民内の派閥力学において派閥解消という戦略はそうとうなインパクトがあったことは確かだ。岸田総理がそれを実行できたのは、旧宏池会への絶対的信頼があったからだろう。安倍派が瓦解がかいし、茂木派が溶け始めた今、「解散しても、旧宏池会メンバーは自分を応援してくれる」という自信だ。永田町界隈では「岸田一強体制」が始まるとの観測も出始めている。

日本プロスポーツ大賞/岸田首相と麻生氏
写真=時事通信フォト
日本プロスポーツ大賞に出席し、笑顔で握手する岸田文雄首相(右)と麻生太郎自民党副総裁=2023年12月21日、東京都千代田区